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児童家庭支援センター×こども宅食。ケアに関わる団体の橋渡しをし、新たな連携を生み出す

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こども宅食応援団では、さまざまな困りごとを抱える家庭に対しアウトリーチ*型のサポートを行いたい方に向けて、こども宅食型の支援対象児童等見守り強化事業(以下、見守り強化事業)の導入事例に関する勉強会や研修コンテンツを用意しています。

*アウトリーチとは
支援が必要であるにもかかわらず届いていない人に対し、支援機関などが積極的に働きかけて情報・支援を届けるプロセスのこと

今回は、静岡県浜松市で2011年から活動をしている「NPO法人 しずおか・子ども家庭プラットフォーム」(以下、「子ども家庭プラットフォーム」)代表理事の村瀬修さんから、こども宅食を通じた見守り支援を始めた経緯や成果などについてお話いただきました。

児相職員歴23年。地域の親子をサポートしてきた経験を次の世代につなげたい

村瀬さんは静岡県職員や児童相談所(以下、児相)、発達障害児支援センター職員などを経て、2011年に児相職員OBらとともにNPO法人 しずおか・子ども家庭プラットフォームを立ち上げた。児相での勤務経験は23年間に及ぶ。一貫して地域の親子の相談支援に貢献してきた経験を生かし、後進の育成や子どもと家庭を支援する現役の方を後方から支援する目的で、同法人を設立した。

法人名にある「プラットフォーム」に込めた思いについて村瀬さんは次のように語る。

「プラットフォームには足場といった意味があり、そこから『信頼』や『頼りがいがある』のような言葉がイメージできますよね。私たちは地域の子育て支援で頼れる場でありたい気持ちで名付けました」

 

プラットフォームでありたいとの思いを実現するかのように2013年、村瀬さんらは浜松市から児童家庭支援センターを受託し、相談支援事業や里親等へのサポート等、設置運営要綱にある5つの事業に取り組んだ。少ない人員で効果を上げるため、家庭児童相談室のサポートや児童養護施設、さらにスクールソーシャルワーカー(以下、SSW)が行うカンファレンスへの参加など「支援者支援」を特に意識して活動してきた。また、子どもと家庭を支援する中枢機関である要保護児童対策地域協議会*(以下、要対協)への参加をとおして、多くの支援機関との連携を目指した。児童家庭支援センターとしての機能を持つことが、子ども家庭プラットフォームが目指す活動となっていく。

*要保護児童対策地域協議会とは
要保護児童やその親御さんに関する情報の交換や支援内容の協議を行うために地方自治体に設置される機関。児童相談所、警察、医療機関、民生・児童委員等が参加するネットワーク。

新型コロナ禍がひとり親世帯に打撃

子ども家庭プラットフォームが見守り支援やフードサポートを始めたのは、2020年5月のこと。同年4月に全国児童家庭支援センター協議会から「”100万人のクラシックライブ”が行う子どもの食緊急支援プロジェクト」への参加を呼びかけられたのがきっかけだ。

「2020年4月といえば、新型コロナウイルスにより緊急事態宣言や一斉休校、保育園の登園自粛などの措置が次々と講じられていた時期と重なります。企業の業績が悪化し、雇用が不安になる中、特にひとり親世帯が受ける経済的影響の大きさを報道で目にして心を痛めていました。

また、一緒に活動しているSSWからは経済的に厳しい家庭の実情が語られ、身近でも新型コロナが子どもと家庭の生活を直撃していることを知りました。

そこで、我々も直接的に支援を展開できないかと考えました。100万人のクラシックライブの子どもの食緊急支援プロジェクトを土台に、NPOの事業として家庭に食品を届ける「子どもフードサポート事業♪ぐぅ」を開始したのです」

 

――子どもの食緊急支援プロジェクト実施報告書より

この取り組みは新聞で取り上げられたこともあって、市民の方々から「地元の人の助けになりたい」「かつて自分もひとり親で大変だったので、今厳しい状況にある人の役に立ちたい」と、地元住民を中心に寄付が集まった。以後、毎月40~50人の子どもにSSWなどの力も借りて、食品を訪問配布している。

こうした活動を開始したころ、国の補正予算で「支援対象児童等見守り強化事業」という食材配布も盛り込まれた内容の事業が可決されたことを知り、浜松市に対して、同事業の実施を提案する企画書を提出。市も積極的に本事業を採択し、2020年10月からこども宅食型の見守り支援をスタートした。

行政と民間団体の橋渡し役として、両者の連携を支える

支援対象家庭には、「保護者が自律的に養育できる」から「虐待のリスクが高い」まで、幅広いケースがある。子ども家庭プラットフォームの見守り実績は2020年度が62世帯、2021年度が104世帯(2021年10月時点)となっている。

見守り強化事業のフローは、以下の通り。

――厚生労働省資料より

見守り強化事業の対象は、要対協が対応しているケースと民間団体が把握しているケースとに分かれている。各ケースの流れを見ていこう。まず、要対協が対応しているケースにおいては、子ども家庭プラットフォームは浜松市で見守り強化事業を行う団体の中で要対協へ参加している唯一の機関であることから、浜松市から支援対象となる家庭の紹介を受け、食品配布を実施した。

一方で民間団体が把握しているケースは、支援が必要と判断された家庭の名簿を市に提出し承認を得て、子ども家庭プラットフォームから各団体に委託する形で食品配布を行った。見守り実施後は、訪問時の状況報告書を子ども家庭プラットフォームが取りまとめて市に提出し、行政と民間との間で情報の共有化を図った。

これらの活動については、2ヶ月に1回程度、事業参加団体で見守り事業推進会議を実施し、経験交流、課題整理などを行っている。これには、市の担当課も参加し現状をリアルに共有してもらった。

見守り支援を行うにあたり、「子ども家庭プラットフォームが児童家庭支援センター機能を持っていることの利点が二つある」と村瀬さんは強調する。

「一つは、児童家庭支援センターとして要対協が実施する各種会議に参加していることです。

要対協が把握している支援対象児童等の情報は、プライバシーの観点から、要対協に参加する機関内でしか共有できません。民間団体の多くは要対協に入っていませんから、支援の必要性が高い家庭を見つけても、すでに要対協が把握しているかどうかわかりませんし、訪問を受託することができない決まりになっています。しかし子ども家庭プラットフォームは児童家庭支援センターとして要対協に参加しているので、守秘義務の壁をクリアできています。そのため、見守り強化事業の目的の一つである要対協が対応しているケースへの支援も民間団体でありながら訪問が可能となっているのです。

もう一つは、行政と民間の協力体制につながったことです。これまでは行政や要対協、民間団体の間には距離感があり、連携がうまくいっていないと感じることがありました。しかし子ども家庭プラットフォームが児童家庭支援センターとして仲介役のような立場を取ることで、行政と民間団体が協力し合うきっかけをつくれています。これらのことは子ども家庭プラットフォームが児童家庭支援センターを受託しているからこそできたことです。」

食品をきっかけに会話が生まれ、悩みを知ることができる

ここからは、こども宅食を利用した食品の配送について見ていこう。予算は一家庭あたり2000円(税込)で、食品の内容は要支援家庭の状況に合わせて変えるが、米や缶詰、レトルト食品といった長期保存ができるものを中心に揃えることが多い。届ける頻度は、原則として月に1度だ。

こども宅食の効果について村瀬さんは、「食べ物は要支援家庭にとって大きなメリット。手ぶらで訪問しても警戒心からドアを開けてくれなかった人も、食品を持参すると中に入れてくれるようになります」と話す。

やがて会話が生まれ、結果として要支援家庭との関係性を構築できているという。

「そうして、2回目、3回目と食品の配送を重ねていくと、ご家庭から『食べ物が来るのを楽しみにしていました』と言ってもらえるようになります。

最初は警戒されてもだんだんと打ち解けてきて、コミュニケーションが取れるようになる。話すうちにご家庭の困りごとがわかってきて、必要な支援をしたり、専門機関につなげたりすることが可能になります」

コロナ禍で一見普通の家庭が困窮してしまう現実

食品の配送を通じ、村瀬さんはコロナ禍の影響の強さを感じたと振り返る。

「当初は、炊飯器がなくお米も炊けないような深刻なケースばかりを想定し、パックご飯を用意していました。しかし実際に訪問してみると炊飯はできるし、ぱっと見は普通のご家庭が多かったのです。新型コロナウイルスによって、こうした家庭が食べ物も買えないほどに困窮してしまう現実を目の当たりにしました」

 

次の図は、子育て家庭プラットフォームが見守り支援をする家庭の困りごとレベルを表している。下の層ほど緊急性が低く、上の層に向かうほど虐待リスクが高く、速やかな対応が求められる。

――厚生労働省「子ども虐待対応の手引き(2013年8月改正版)」を加工

村瀬さんによれば「一番下の層ほど早期発見が大切」だという。理由は「ぱっと見は困っているように見えないために見逃されやすく、その間に状況が悪化して上の層へと移行してしまう」ためだ。そのための方法として「訪問は有効」だと訴える。

「実際に伺って玄関を見ると、家庭の実態を把握できます。たとえば靴は散乱し、廊下は散らかり放題の場合は『ネグレクトがあるかもしれないので、要注意だな』と私たちは意識できるわけです。訪問を担当したスタッフは『実際に家庭に出向いて初めてわかることがある』と話していました」

行政が民間団体の活動に理解を示し、民間団体同士の連携が深まる

最後に、村瀬さんはこども宅食型の見守り支援をすることによる成果について次のように語った。

「一番の成果は、食品の配送を通じてご家庭との関係性を築けたことです。心を開いていただけるとその家庭での困りごとが把握できるため、さまざまな支援のご提案が可能です。追い詰められてしまうご家庭は、つらさを相談できる相手がいないことがほとんどです。私たちが話を聞くだけでも、とても喜んでくださいます。

自治体が用意している支援制度は、「助けてください」と申し出ることで初めて利用できることがほとんどです。でも誰もが周りにSOSを出せるわけではありません。助けてを言えずに支援の輪からはみ出てしまう家庭を一つでも減らすため、これからも状況把握に努めます」

また、これまで民間との溝を感じてきた行政の対応に前向きな変化があるという。

「行政が民間団体の活動内容や実態をよく理解していない課題がありました。しかし支援対象児童等見守り強化事業では民間団体から行政に報告義務があります。行政の担当者が報告書に目を通すことで、相互理解が進んできています。

そうそう、児相が民間団体へ見守り支援が必要な家庭について連絡をしたことがあり、民間団体の担当者が喜んでいましたね。このようなケースはまだ少ないものの、行政と民間との間にあった溝が埋まりつつあるなと感じます」

 


こども宅食の事業は、こども食堂やフードバンクなどの居場所や食支援をしていた団体が、居場所に来れないご家庭に向けてご自宅に届けるこども宅食を始めたケースと、社協などの相談支援を主にしている団体が、相談に来れないご家庭にアウトリーチする手法としてこども宅食を始めるケースがあります。

今回の子どもフードサポート事業♪ぐぅは、後者のより多くのご家庭に支援を行っていく方法として、こども宅食に取り組み始めた事例です。

行政と民間団体の連携に課題を感じ、どう相談支援へつなげていくのか、と迷われている団体の参考になりましたら幸いです。

 

こども宅食応援団では、様々な団体の事例を紹介するなど、こども宅食を実施する上でのヒントをお伝えしています。

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