「ここからKit」は、子育て中のお母さんの駆け込み寺のような場を設けたいとの思いで、平成26年9月に発足したNPO法人です。大阪府岸和田市を拠点として、乳児から思春期の子どものいるお母さんを対象に、親子ひろばの開催、フードパントリー、こども食堂、一時預かり保育、ホームスタート、こども宅食と幅広い活動を行っています。
ここからkit というネーミングには、「ここ…此処・個々の」「から…Color・十人十色」「kit…keep in touch ずっと触れ合っていよう、つながっていよう」という意味が込められていて、人と人との出会いの大切さや、お互いを認め合いながらつながりあう大切さを伝え、ひとりぼっちの子育てから、みんなで子育て一緒に子育てをしていこうというメッセージをこめ活動をしています。
――親子ひろばでは様々な講座も開催されています
ここからKitの発足以前、代表の長谷川さんは公民館活動や、地域の子育てサークルのバックアップなど、様々な親子の支援に携わっていました。その頃、感じていたことは、「子育て中の親子が安心して、いつでも気軽に足を運ぶことのできる居場所が少ない」「制度の枠組みの中では柔軟な支援が難しい」ということでした。
NPOを発足し、まず取り組んだことが「居場所」づくりです。馴染みのスタッフがいて安心して過ごすことができる。ここに来れば仲間もできると多くのお母さんが集まりました。
そんな中、「来たいけれど毎回来ることは難しい」と足が遠のくお母さんたちの存在と出会います。足を運ぶことの出来ないお母さんこそ助けが必要なのではないか。長谷川さんはそう感じ、ホームスタート(家庭訪問型子育て支援ボランティア)の活動をスタートします。ホームスタートは、研修を受けた地域の子育て経験者が乳幼児のいるご家庭に訪問し、話を聴いたり、一緒に家事や育児、外出等を行うなど、親子に寄り添い安心を届ける活動です。今では23名のボランティアスタッフがここからKitに登録し活動を行っています。
ーー活動を通して多くのボランティアスタッフとの出会いがありました。
ここからKitは、こども食堂の開設をきっかけとして食支援をスタートしました。コロナ禍となり、集合しての食堂開設が難しくなったことをうけ「きしわだフードパントリー」を開設。LINEでの募集を行い、支援が必要な家庭へ食材のお渡しを行うようになりました。
訪問し食材をお届けする中で、これまで見えてこなかった家庭の困りごとに触れるようになりました。登録家庭の多くがシングルで、離婚訴訟中の家庭もありました。はじめは心を閉ざしていたお母さんも訪問の回数を重ねるうちに、ぽつりぽつりと日々の困りごとを話してくれるようになりました。行政とのつながりもあることから、困っていることがあれば、必要な支援・専門家につなげていくこともできます。お母さんの気持ちにゆとりができれば、こども食堂や親子ひろばへお誘いもします。食材のお届けをしながらつながり、見守ることで家庭の変化を感じることが出来るようになりました。
小学生の子どもとの親子関係に悩み、精神的に疲弊していたお母さんがいました。家庭内での争いが絶えず、警察へ相談することも。行政とのつながりはあるものの、解決策に至らずといった状況です。そのお母さんは「相談しても行政は何もしてくれない。こどものことばかりで、親の私のことは何も助けてくれない」との思いを抱えていました。お母さん自身も、私の話を聴いてほしい、助けてほしい、という思いがあるのです。
つながりを持つ中で、長谷川さんが大切にしていることは「将来的に自立を促すことを一番の目的にする」ということです。話を聴くことしかできなくても、心に寄り添うことはできます。傾聴し、心をほぐしていく。つながっていることで、前向きな気持ちを育み、必要な支援へとつながるきっかけとなっています。
――こども宅食のお届けは月に1回程度 人数や年齢など家庭環境に応じて食材を準備し、家庭の都合に合わせてお届けしています
団体設立から10年。ここからKitは、おとなも こどもも ホッとできる場所になるようにと活動を続けてきました。お母さんたちとのつながりの中で感じていることは、「話を聴いてほしい。自分の思いを受けとめてほしい。」と思っているお母さんがとても多いということです。「こんなことを言ってもいいのかな。私にとってはとても大変なことだけど、小さな悩みと言われるかもしれないから話せない。」と心を閉ざしてしまうお母さんは少なくありません。
『そんな時は「もうしんどい」とつぶやいて。』と長谷川さんは話をしています。
お母さんの心が満たされていたら、自然と家族に優しくできる。子どもの支援の為には親の支援が一番大切なことと信じ、目の前のお母さんの笑顔が増えていくようにと思いをこめて活動を続けています。
――通りに面したここからKitの施設
ここからKitは、岸和田駅から近い通り沿いにあります。入り口には活動を紹介するポスターが掲示され、道行く人が足を止め活動に関心を寄せてくださっています。「少量ですが、誰かのために役立ててください」と食材を届けてくださる方もいます。地域に活動が拡がるには、一人でも多くの方に活動やその思いを知っていただくことが大切です。
行政や社協との協働も、地域での活動を支えていくために大切なつながりです。岸和田市から委託を受けている「女性のためのつながりサポート事業」では、相談支援の他に、生理ナプキンをお届けするという取り組みも行われています。食材と共に、行政や地域の方からの支援の品をお届けすることで、地域に支えられているという安心感にもつながっていくのです。
また、親子ひろばなど、ここからKitの活動に参加しているお母さん達から「私も運営側として活動に参加したい」という申し出を頂くようにもなりました。
こどもをまんなかに新しいコミュニティを育んでいく。
ここからKitの活動は、地域に根差し、これからも拡がっていきます。
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