一般社団法人こども宅食応援団(佐賀県佐賀市、代表理事:駒崎弘樹、以下「こども宅食応援団」)の代表 駒崎弘樹は、2024年11月に開催された、第10回生活困窮者自立支援全国研究交流大会in北海道に登壇し、「制度を超えて子ども若者を支えるために」というテーマで登壇しました。
経済的な困難を抱える人や、孤立して生活する人の相談・支援を柱に、就労や住居のサポートをして当事者の暮らしを支える国の制度を創設した「生活困窮者自立支援法」が制定されてから、10年が経ちました。社会を取り巻く状況はこの10年間で大きく変わり、少子高齢化の加速、歴史的な物価高騰、予想もできなかった感染拡大など、私たちの生活を揺るがす要因が増大しています。
「生活困窮者自立支援全国研究交流大会」は、一般社団法人 生活困窮者自立支援全国ネットワーク(以下、生活困窮者自立支援ネットワーク)が主催。第10回となる今大会は「人と人とが向き合う、いのち・くらし・せいかつ 一なんとかなる 楽しみながら地域づくり一」をテーマに、開催北星学園大(札幌市厚別区)などで開かれ、支援に携わる全国の専門職らが集まり、実践例を検討しました。
生活困窮者自立支援ネットワークはこう言います。「制度はあくまでツールであり、本来の目的を達成するための手段のひとつです。支援する者、支援される者という一方的・個人的なつながりに留まらず、日々の営みや暮らしのなかで共に支え合う関係づくりこそが大切です」
本記事では、2日間にわたって行われた大会で、こども宅食応援団の代表理事、駒崎が登壇した際のレポートを中心にお伝えします。
1日目のシンポジウムでは「重なり合う支援で暮らしづくり・地域おこし」という議題で、重なり合う支援を通じた地域おこしや、制度的な取り組みの中で連携し、地域共生社会のまちづくりをどのように目指すかが話し合われました。
2日目は、分科会が8回に分けて開催され、駒崎は「分科会8 制度を超えて子ども若者を支えるために」で登壇、「こども宅食の実践と今後の展望」というテーマでお話をしました。
子ども・若者支援は、生活困窮者自立支援制度だけでなく、さまざまな支援制度、民間の取り組みによって支えられています。本分科会では、当事者・経験者の声を聞き、民間創造の取り組みも含め、制度を超えて必要な子ども若者の支援のあり方について議論しました。
登壇者
一般社団法人hito.koco 代表理事 宮武 将大 コメンテーター 公益社団法人ユニバーサル志縁センター 理事 小田川 華子 コーディネーター NPO法人パノラマ 理事 鈴木晶子 |
こども宅食を開始した背景・経緯(2017年)
駒崎からは、こども宅食事業を開始する経緯として、認定NPO法人フローレンス(※)で実施してきた居場所事業や保育園を運営しながら、課題を抱えたご家庭を目にした際に「待っているだけでは困っているご家庭を見つけられない。どうやったら、そうしたご家庭とのつながりを作れるのか?」と考え、定期的な食のお届けをきっかけとしながら、ご家庭とゆるやかにつながり、寄り添う伴走支援型事業を東京都文京区で開始したことを伝えました。
※こども宅食応援団は、認定NPO法人フローレンスグループであり、連携してこども宅食の全国普及に取り組んでいます。
――文京区こども宅食のキックオフ記者会見の様子(2017年)
こども宅食を実施するスキーム
こども宅食は、農家や企業、フードバンクなどから寄付で頂いた食品を倉庫に保管し、配送前に梱包して、ご家庭へ個別に配送する流れを基本として、2017年文京区のふるさと納税の仕組みを活用し、資金を集めて実施開始しました。また文京区のこども宅食は、コレクティブインパクト(特定の社会問題を解決するために、さまざまな分野に属するプロフェッショナルが強みを持ち寄って協働する)の形で、行政・企業・NPOが連携してこども宅食事業を実施しています。
――こども宅食のスキーム(一例)
こども宅食応援団の立ち上げ(2018年)
文京区で実施しているこども宅食の事業に共感したり、既に課題意識をもっていた全国各地の社会福祉協議会など様々な団体さんも多くいることが分かり、2018年には、各団体の後押しをしながら、こども宅食を全国に広める「こども宅食応援団」を立ち上げました。こども宅食事業の特徴として、上記スキームに拘らず、地域ごとの特性に合わせた形で実施できるため、例えば宮崎県三股町の「みまたん宅食」では、地域の農家さんにいただいた野菜と、簡単に作れるレシピをつけて配送していたり、長崎県長崎市や雲仙市では、「来所型」として食品を届けるのではなく取りに来ていただく形をとっています。地域性も考慮し取り入れた支援の形で、支援を受けていることを知られたくない方の為の配慮であったり、相談窓口ともなる「社会福祉協議会」への馴染みを持ってもらえることを狙いとしています。行政情報を知ることができる場所、相談できる場所が身近な存在となることも大切な支援のひとつです。
また、こども宅食応援団は全国の団体の皆さんを後押しするだけではなく、しっかりとサステナブルな活動にするための予算がつくように、国への提言も行っています。各地とつながっているこども宅食応援団が、現場の意見をふまえた制度改善のために、現場だけでは解決困難な課題を可視化したり、予算や制度の使い勝手の改善、新制度の提案などをしています。
――こども宅食応援団の取り組み。団体や自治体と国それぞれへのアプローチをしている
――こども宅食の全国への広がり
専門職だけで福祉事業を実施するのではなく地域のサポーターを巻き込む
こども宅食の大きな特徴は、役所の窓口で相談に来るのを待っているのではなく、こちらからご家庭につながりを作りにいく「出張る福祉」であることです。また、専門職だけで支援活動を行うのは人出不足もあり事業が成り立たないため、専門職の方もいながら、地域のいろいろな人が日常的なサポーターとして一緒に活動することで支援の形をつくっていくことに取り組んでいます。
――これまでの支援の「当たり前」の形を変えていきたい
地域の支援サービスは利用されていない
支援に関して、ご家庭から寄せられた声は、このような内容です。
「生活が苦しいというのは周りには知られたくない」
「このあたりの民間の支援団体につなぐことはしないでほしい」
「保育園のママ友が区役所で働いていて、自分の状況を知られるのが怖い」
「仕事を掛け持ちしながら子育て。夜遅くに帰ってきて、平日の窓口に行く余裕はない」
このような声があるなか、こども宅食応援団は、全国1,000世帯へアンケートを取りました。本アンケートは、2020年新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、さまざまな生活課題を抱える子育て世帯にどのような影響が出ているかを把握し、支援ニーズを明らかにするために実施したもので、回答者の約8割が「生活が苦しくなった」と回答、84.3%が支出増など、家庭への深刻な影響がある一方、ほとんどの家庭が行政・地域の支援メニューを利用できていない実態が明らかになりました。
――『1000世帯アンケートでわかった、生活困窮世帯が今一番困っていることは…? ~全国各地のこども宅食利用者に調査~ 「新型コロナウイルスの影響に関するアンケート」』より
こうした中、各家庭が深刻な状況に陥る前に、食料品の配送を通して各ご家庭と積極的に関わる「こども宅食型」の支援の重要性がますます高まっています。
こども宅食では、これまで地域の福祉活動ではつながることができなかったご家庭とのつながりをつくることができています。
届けることで見える、感じられるご家庭の様子がある
福岡で居場所事業 「じじっか」 を運営するNPOでは、こども宅食の仕組みを取り入れたことで、新しい関係性が生まれてきました。福岡県久留米市「じじっかウーパー」のエピソードをご紹介します。
配達をすることで、外では見せない、見えない様子を知ることができるようになったのです。お届けする際に、玄関先で話をする時間を持つことで、家庭の様子や、お母さんや子どもたちの心の様子を感じることができます。
皆が集まる場所では見せない家庭での顔、いつもは朗らかな様子のお母さんが自宅では切羽詰まった様子が見られたり、玄関先からも家の中が整っていない様子を知ることがあったり、動きたいのに動けない理由を知ることができたりします。 お母さんが抱えている困りごとや、子どもたちが感じているストレスなどを目の当たりにするようになりました。 |
こども宅食が大切にする「とどける・つながる・つなげる」
人や社会、地域とのつながりにくいご家庭ほど「とどける」プロセスを大切にしています。「お米をとどけます」「野菜が余ったので、おすそ分けをもらってくれませんか?」など、食品を携えて自然な形で継続的なつながりを作ることができるのは、こども宅食ならでは。
ゆるやかに、丁寧に、継続的なつながりを作ることで、少しずつ見えてくる家庭の様子があります。
「とどける」の部分は、民間や非専門職の参画が非常に重要です。ボランティアや、ふだんは違う仕事をしている人などから、の仕事や義務ではない声かけや見守りの方が、ご家庭から警戒されずに関わりやすい面もあります。また、地域住民の中には、関係性構築に関して高いスキルを持った方々がいたりするので、そうした地域のみなさんを巻き込んでいけるのも、こども宅食の特徴です。
こども宅食に取り組む中で、全国の団体さんを通じてご家庭を見ていると、様々な気づきがあります。家庭とつながりを持つようになると、1人1人の顔が見えてきて、「こんな活動があったら、あの親御さんも一緒に楽しめそう」、「◯◯君のためにやってみよう」といった想いが生まれ、自発的に家庭をサポートする活動を始める人や団体が地域で出てきます。
そうした活動を通じて、こども宅食のご利用家庭が楽しんだり、少しずつ前向きになる変化があると、サポートする側も手応えが感じられ、「またやろう」、「次は地域の◯◯さんも巻き込もう」と活動が持続的なもの、広がりのあるものに育っていきます。
今回のセミナーは全国の社協や行政の関係者の出席が多い中、全国で第一号のコミュニティソーシャルワーカーとなり、さまざまな地域福祉のモデルを作ってきた豊中市社会福祉協議会の勝部さんもコメンテーターとして、実践を踏まえアウトリーチの必要性を訴えました。
――写真は、2022年6月の社協向け「こども宅食」全国勉強会で登壇頂いた時のもの
豊中市では、コロナ禍でこども宅食型の支援を始め、3年間継続したいまでは、対象世帯はすでに170世帯になっているとのこと。
ヤングケアラーの子ども、自治体の要支援会議で取り上げられる家庭・・・児童相談所や専門機関がなかなか会えない、と悩む中で、こども宅食という”アウトリーチのツール(活動)”を持つ社協だけが定期的に会えている、ということも少なくないそうです。
「相手に喜ばれ、嫌がられない。定期的に会う”必然性”のあるアウトリーチが求められている。こども宅食をやってみて『これだ』と思いました」
定期的に訪問することで、子供の進学などのイベントや、家庭が「行政の手続きが分からなくて困っている」等、家庭の状況に合ったタイムリーな支援にもつながっていきます。
「いま地域福祉では、高齢者や障害者の部門にはケアマネージャーがいると思います。子育て支援にはいまそうした機能がないですよね・・・。こども宅食をうまく使えば、とても伴走的な応援ができます。これから子ども・親子の分野で、こうしたスタンスで個別支援をしていくことがとても大事だと思っています」
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こども宅食応援団では、全国で地域づくりや福祉・子育て支援に関わる皆さんに、「食」という温かみのある支援をうまく活用した”出張る”福祉のこども宅食の効果や必要性を知ってもらい、1箇所でも多くの地域で導入が進むよう、今後もこうしたセミナーや交流会の場で情報発信をしていきます。
分科会8では、「制度を超えて子ども若者を支えるために」のテーマで、各事業の取り組みについて紹介がされました。
駒崎の発表でもお伝えしたように、こども宅食応援団は、「地域のつながり」を丁寧につくることを大切にしています。専門職以外の巻き込みなども交えながら、「困っていることを人に言えない」そんな家庭の中にとどまりがちな親子の課題を、地域のつながりによって見逃さずに「困ったときは、おたがいさま」と手を差し伸べるような、安心して子育てできる温かな社会をつくっていきたいと考えています。
一般社団法人 生活困窮者自立支援全国ネットワーク
生活困窮者自立支援制度施行を踏まえ、生活困窮者支援に携わっている人々、当事者、学識経験者などが、職種や所属等を超えて広く出会い、共に学び、共に支え合い、支援者としての資質の維持・向上や関係者間の連携、関連政策の推進を図っていくことを目的として、2014年11月に設立。「生活困窮者自立支援全国研究交流大会」や、相談現場に根ざした実践的な研修セミナーの企画・開催、ホームページや会報・メールマガジンの発行などを通して、各地の最新情報を届け、出会いと学びの場づくりに取り組んでいる。
こども宅食応援団
こども宅食応援団は、経済的に厳しいなどの困りごとを抱えた子育て家庭に、食品等を定期的にお届けすることで少しずつ関係を築きながら、必要な支援につなげたり、地域での見守りを行う「こども宅食」の取り組みが全国各地で実施される未来を目指して、こども宅食の普及活動を行っています。
こども宅食応援団公式サイト https://hiromare-takushoku.jp/
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