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ベストセラー『夢をかなえるゾウ』著者・水野敬也さんに聞く。「競争に勝たなくても、幸せになれる世界」とは?

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自己啓発小説のベストセラー、『夢をかなえるゾウ』(文響社)シリーズ。関西弁を話すゾウの神様・ガネーシャが主人公の夢をかなえる様子を描くストーリーが人気で、累計400万部を売り上げています。

これまでは夢の実現に焦点を当てていた同作ですが、今年7月に発売した『夢をかなえるゾウ4 ガネーシャと死神』では、「夢を手放すこと」がテーマ。競争や仕事偏重の生き方に疑問を呈し、「仕事で成功する」「お金持ちになる」などを扱った過去作とは内容が大きく変わっています。

そんな超ベストセラー小説を手がけた作家の水野敬也さんは、長年子どもを取り巻く環境や、気候変動問題、見た目問題など社会課題へ高い関心を持ち、こども宅食をパワフルに支援してくださっています。今回は、「こども宅食応援団」の代表を務める駒崎が、水野さんとスペシャル対談。現代日本の子どもが置かれている状況や目指すべき社会の像について、お伺いしました。

プロフィール

【水野敬也】
1976年、愛知県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒。著書に『夢をかなえるゾウ』シリーズ、『人生はニャンとかなる!』シリーズ、『運命の恋をかなえるスタンダール』『顔ニモマケズ』ほか、著書多数。恋愛体育教師・水野愛也として『LOVE理論』『スパルタ婚活塾』、映像作品ではDVD『温厚な上司の怒らせ方』の企画構成・脚本、映画『イン・ザ・ヒーロー』の脚本を手掛けるなど活動は多岐にわたる。公式ブログ「ウケる日記」

【駒崎弘樹】
こども宅食応援団代表理事・認定NPO法人フローレンス代表理事。1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2005年日本初の「共済型・訪問型」病児保育を開始。08年「Newsweek」の“世界を変える100人の社会起業家”に選出。内閣府「子ども・子育て会議」委員複数の公職を兼任。一男一女の父であり、子どもの誕生時にはそれぞれ2か月の育児休暇を取得。公式ブログ「駒崎弘樹ブログ」

こども宅食とは?
2017年文京区で開始した、生活の厳しい子育て家庭に、お米や寄附企業からの食品・体験機会などの提供を通じ、社会とのつながりを生み出し、時に必要な支援へとつなげる新しい福祉の取り組みです。2018年には「こども宅食応援団」を設立し、こども宅食モデルを全国各地で展開するための、ノウハウ提供を始めとする伴走支援を行っています。
この春には「新型コロナこども緊急支援プロジェクト」を通じ、約4,500世帯の子育て家庭を支援し、19のこども宅食実施団体をサポートしました。withコロナ時代にさらに必要とされる、各ご家庭と積極的なかかわりを持つ活動で、親子のつらいを見逃さない社会をめざしています。
参照:こども宅食応援団公式サイト「こども宅食・応援団とは」

「非モテには生きる価値がない」と思った中学時代

(駒崎)今日は、ありがとうございます。さっそくですが新刊を読ませていただきました!主人公は余命3ヶ月を宣告された男性で、死を後悔しないためにすべきことが詳しく書かれています。

本文には「夢が苦しみを生む」という言葉が出ていて、前作までとは方向性がガラッと変わっており、面白かったです。今作で夢の手放し方について書こうと思われた理由を教えてください。

(水野)こちらこそ、今回はお声がけくださりありがとうございます!

率直に言うと、競争に勝ったり、成功すれば幸せになれたりするといった価値観を疑うようになったためです。

少し長くなるのですが、背景から説明させてください。発端は中学時代に僕が体験した悔しさです。学校では容姿や成績が良い生徒の方が立場が上で、そうではない生徒が底辺に属する。まるでピラミッドみたいな構図があると思いませんか?

(駒崎)スクールカーストですね!

(水野)はい。僕はスクールカーストの概念を日本で初めて提唱したと思っているんですよね(笑)。中高一貫の男子校に通っていて、女の子と知り合うにはトップ数パーセントに属するモテる男子と仲良くならないといけませんでした。

(駒崎)わかるなぁ。僕も男子校でしたし、筋金入りの非モテでして……。特段成績が良いわけでもなかったので、モテるにはどうしたらいいかわかりませんでしたから。

(水野)僕は小学生まで周りから神童と言われていて……でも中学時代に突然「非モテ」の烙印を押されたんですね。

同じクラスにYくんという男子生徒がいて、文化祭では彼目当てで来た女子校生たちで教室があふれかえりました。そして僕が自分の荷物を取りに教室に行こうとしたら、「Yくんが見えないんでどいてください」と言われたんですね。そのことが僕はショックで、非モテには生きる価値がないとすら思ったほどです。

このピラミッドはなにも学校だけの話ではなく、社会に存在します。僕はこの出来事をきっかけに、収入や知名度を上げ、ピラミッドの上を目指すことを人生の目標に定めました。そのために365日、24時間、すべての時間を捧げてきたと言っても過言ではありません。

ピラミッドを上った先で感じた「自分、全然幸せじゃない」という悲しさ

(駒崎)それはまさに資本主義の考え方ですよね。資本主義は経済を活性化する利点を持つ一方で、その恩恵にあずかれない人も生んでしまう。

「こども宅食」では、ひとり親世帯をはじめ経済的に厳しい家庭の見守り支援をしていますが、今の状況になったのは彼らが決して悪いからではないんですよ。厳しい生活をしている人が、より追い詰められてしまいやすい社会構造がおかしいわけです。

(水野)本当にその通りです。考えてみれば、容姿や成績、収入で人の価値が左右されるのはおかしい。職業や家族構成、経済状況でも同様です。

資本主義では競争に勝つことが良しとされますが、ピラミッドの上に行くことと幸せはイコールではありません。

自分の本が売れ、ドラマ化されるようになってから、雑誌の企画で女優さんと食事に行く仕事をいただいたことがあります。ただ、実際に食事をすると、「もしこの食べ物を吐いてしまったらどうしよう」という謎の不安が生まれて、食事をすることが怖くなっていったんです。心療内科の先生に聞いたら「会食恐怖」というらしいですね。当時僕は、14歳のときに目指したピラミッドをかなり上っていたはずなのに、「全然幸せじゃないな」って思ったんです。

(駒崎)ピラミッドを上った先に、思い描いていた世界はなかったわけですね。

(水野)そうです。こうした経験がたび重なって、僕はピラミッドとの付き合い方を変えよう、どう向き合えば良いのかを考えるようになり、第4作のテーマにつながりました。

僕がこども宅食を応援する理由

(水野)先ほど駒崎さんがおっしゃったように、資本主義には競争によって優れた商品を生みだしたり、経済活動を刺激するといったメリットがあります。「自己責任」という考えは、自分の成長を引き出すという側面もあるでしょう。

でも資本主義の考え方が行き過ぎると、戦いに強い者がピラミッドの上に行く一方で、子どもや高齢者、障害者など競争力に劣る層が恩恵を受けられない状況が発生します。またそういった人たちに対して「自己責任」は、「手を差し伸べなくてもいい、だって自己責任なんだから」というある種の「無責任」さを生み出してしまう。

今回の対談テーマは子どもなんですが、仕事の優先度が高く、競争に勝つことに人生の意義を見出している人ほど、子どもに関わる時間を無意味に感じると思うんですよ。

育児は「お金」という報酬を生みませんし、子育て経験は履歴書に優位に働きにくい。ただ、一見すると非生産的に思えるかもしれませんが、将来を担う子どもへの関わりは長い目で考えたら無駄なはずがない。もっと言えば、僕たちは人類という種を存続させていくことが最大の命題なはずなので、「子どもに関わる時間は無駄」「子どもは自分の邪魔をする」と考える人が多くなった現代は、病的だと言えるかもしれません。

もっと働いて偉くなろう、もっと稼ごうという世間の流れとは反対に、子どもに目を向けてたくさん関わっていく。そうすることで、行き過ぎた資本主義の考えを中和できるのではないかと思うようになりました。僕が「こども宅食」を応援する理由はここなんですよね。

食をきっかけに困りごとを抱える家庭をサポートし、LINEで繋がりを持って変化に対応する……というスキームも、素晴らしいと思いました(※)。
※東京都文京区で実施するこども宅食では、利用家庭とLINEや配送時のやり取りを通じ、困りごとを見つけたときなど、ときには必要な支援につなげている。全国各地のこども宅食実施団体も、それぞれLINEなどを活用して利用家庭とのつながりを生み出している。

(駒崎)ありがとうございます!水野さんにそうおっしゃっていただけて嬉しいです!

今の時代に不幸だと思い込まされている人に、何ができるか

(水野)僕は自分のコンプレックスから「こうすれば成功する」「こうすればモテる」といった画一的な方法論にこだわっていました。

これは多様性から考えたら真逆の発想と言えるでしょう。人の価値は「収入」や「モテ」という単純なものさしでは決まりません。僕は非モテを悪と思って乗り越えようとしたけど、問題は、本当の意味での個性を認めず、否応なしにピラミッドの上を目指すよう駆り立てる資本主義の考え方の方だと感じています。

(駒崎)たしかに、みんながみんな競争を好むわけではありません。ピラミッドを上らなくても、幸せを感じる人もいるはずですよね。

(水野)多くの人が「なりたい像」を持っていると思います。たとえば、アインシュタインやスティーズジョブスみたいな偉人に近づきたいと。たしかに彼らにはキラキラと輝いた部分はありますが、その裏にある苦しみや悩みを見つめる人は少ないはずです。

これはある意味で「月」のようなものだと言えるかもしれません。僕たちが見る満月はこうこうと輝いていますけど、太陽の光が当たらない裏側は真っ暗です。僕はピラミッドの上を目指すってそういうものだなと思っていて、キラキラ光っているように見えても実は自分らがそこだけを見ているのであって、裏側はやっぱり想像しなかったもの・違うものがあると思うんですよ。自分が世界のどこにいても、実は光と闇というのは常に存在している。

なので今苦しいなと感じている人がいたとしたら、それは光の当て方が間違っているだけだと思ってほしい。今の時代の空気や制度に不幸だと思い込まされてしまっている人たちに、どういう光を見るような物語をつくれるだろうか。僕はそのことをずっと考えています。

善意の出口がもっと増えれば、優しい社会ができる

(駒崎)水野さんは作家のほかに、寄付を積極的に行う活動もされています。寄付にどんな意味を感じていらっしゃいますか?

(水野)本当に色々な意味があると思います。お金を使って応援することで、社会を変えるんだという意思表示になりますし……ただ、最大の意味は、他者に対する優しさや愛情を選ぶ「自分」を好きになれるということかもしれません。自己肯定感が低い人ほど、他者の視線を気にすると言われますが、資本主義的なピラミッドを登るということはまさに「より多くの他者から認められよう」と目指すことです。しかし、それはある意味で、より高級なブランドの服を手に入れていく作業ですから、その服を着る生身の自分の心はやせ細ったままです。僕は、寄付にはその逆の意味があるような気がしています。

(駒崎)素晴らしい!でも残念ながら日本では寄付の文化があまり根付いていません。どうすれば多くの人が寄付をしようと思うのでしょうね。

(水野)寄付というアクションには「投票」という意味があると思います。「こういう世界を支持する」という。だから、100万寄付する人も100円寄付する人もすごく大事な「一票」を投じている。この感覚が多くの人に広まることが大事だと思います。

ただ、僕は、日本にすごく大きな可能性を感じています。確かに、日本には寄付の文化が根付いておらず、「日本人は寄付をしない」とか「優しくない」と言われることがあります。でも、僕は日本人は世界でも圧倒的に優しい人たちの集まりだと思っていて、ただ、照れ屋なんですよね。周囲の反応を気にしすぎる。逆に、寄付をはじめ、優しさを表現することが自然な雰囲気になったら、もっと素晴らしい社会になる気がしています。

(駒崎)優しさの表現としての寄付。よい言葉ですね!

勉強がわからないだけで、子どもに劣等感を植え付けるのはどうなの?

(駒崎)最後に、これから子どもたちが幸せに暮らすためには社会がどうあるべきかを考えていきたいです。

(水野)今、ふと思い出したんですけど……僕が小学校時代の初恋の女の子に大人になってから再会したとき、彼女がふと、こんな言葉を漏らしたんですよ。「中学で勉強についていけなくなっちゃって……」雰囲気から、そのことを強く気にしている様子でした。もし、「勉強についていけない」なんていう理由が彼女の輝きを失わせていたのだとしたら、ありえないなと思ったんですよ。

(駒崎)確かに、テストで良い点数が取れないだけで子どもの自己肯定感を下げてしまう教育のあり方はおかしいですよね。学校は下手をすると、子どもに惨めさや敗北感を植え付ける場になりかねません。

教育は英語で”education”と言いますが、これは「引き出す」を意味するラテン語に由来します。つまり教育とは、子どもが持っている、自分でも気が付いていない魅力や能力を引き出してあげることなんです。知らないことを大人が教え込むことだけが教育ではない。

(水野)そんな意味があったんですね!子どもの欠けている面を見るのではなく、子どもが持っている魅力や才能にもっとフォーカスしていくことは本当に大切です。

(駒崎)僕が関わっているこども宅食事業では、経済的に苦しい家庭のお子さんを対象にしています。でもみんなそれぞれに良さがあるし、才能や可能性を引き出してあげるべきだと思うんです。みんながみんな、どんな状況にあったとしても、才能や魅力が花開くような社会を目指していきたい。僕はそう考えています。

(水野)それは本当に素晴らしい社会ですね!なんだか駒崎さんと話していたらもっと寄付したくなってきたので、多くの読者に喜んでもらえる良い本が書きたくなりました。もう対談はこのへんにして、執筆に戻っていいですか?(笑)

(駒崎)(笑)僕もそんな社会を実現すべく現場に戻ります。お互い、頑張りましょう!

writing:薗部雄一

資本主義の中で形づくられた「幸せ」を求め、激しい競争を繰り広げる社会の中で、厳しい状況におかれた子どもたちをどう支えていくか。
子どもたちが暮らす未来への投資を、いかに浸透させていくか。
最新作のテーマを絡めながら、示唆に富んだお話をいただきました。

現在、深刻な「コロナ不況」のあおりをうけ、経済的に厳しい立場に置かれる親子は更に増えています。
また、密集・密接の状況が生まれやすい「子ども食堂」等の運営が難しくなる中、困りごとを抱えた親子の状況は見えづらくなっています。個別にご自宅を訪問して家庭とのつながりを持つ、こども宅食のようなアウトリーチの形での支援はますます重要となっています。

こども宅食応援団では、今後さらにこども宅食モデルの全国での立ち上げ・伴走支援に注力し、厳しい状況に置かれた親子に積極的に関わり、社会全体で支える未来を目指します。
こども宅食応援団の活動は、皆様からのご寄付で運営しています。

公式サイトやSNSでも、日々の活動の様子や、取り組んでいる社会課題についてお知らせを発信しています。ぜひご覧頂き、応援をお願いいたします!

▼▼▼本対談の動画はこちらからご覧頂けます!▼▼▼

 

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