「妊娠をしてしまったかもしれない・・・」
「親が恋人を連れてきた。自分は邪魔だからと家を追い出された」
「親が教えてくれないから、自分の名前の漢字が分からない」
「なぜこんなつらい思いを自分だけがしなければならないのか?」
2010年から、葛飾区で課題を抱える子どもを対象とした居場所事業を行っているNPO法人ハーフタイムさん(以下ハーフタイムさん)。大学生のボランティアを中心に、子どもたちと話をしたり遊んだり、生活や学習の相談にのっています。
このように書くと通常のオープンな居場所事業のようにも思えますが、ハーフタイムさんの居場所はclosed(=公開していない)。学校・児童相談所などから紹介を受けた深刻な悩みを抱える子どもたちの受け入れもしています。
こども宅食応援団では、「”つらい”の声を上げられない親子」「外から深刻な状況が分かりづらい親子」の問題に着目。長年子ども達を支援するハーフタイムさんが、「生きづらさを抱える子どもたちのリアルな声を聞く」について研修をすると知り参加してきました。
19年9月時点でハーフタイムさんに登録している子どもは37名。抱える課題は以下のようなものです:
合計が「37」を超えていることからも分かる通り、課題を複数抱えているケースがあります。
セミナーでは、いろいろな「リアル」な声が紹介されました。プライバシーの関係で具体的には書けないものの、非常に胸がつまる話も多かったです。
このように深刻な課題を抱える子どものSOSが社会に埋もれてしまうのはなぜか?
長年の支援・相談の経験を踏まえてハーフタイムさんはこう訴えます。
1.行政はさまざまな調査をして「住民の声」を拾おうとするが、調査で分かるのは、「回答出来る子ども・保護者」のニーズ・声だけ。
2.各種の制度は、それを申請するだけの精神的余力のある保護者・養育に関心のある保護者しか利用しないという落とし穴が
3.上記のような行政の相談や支援の枠組みでは、必ず漏れるケースは生じてしまう。しかも、状況が深刻であるほど漏れやすい・・・
例えば、以下のようなケースです。
子どもの食事も勉強にも関心がなく養育放棄の親が、わざわざ行政の窓口に来たり、支援サービスの利用を申請するのか?
親から教えられず自分の名前の漢字が書けない小学生。不登校ではなく「無登校」の子ども。調査でその声を拾えるのか?
家計がつらくても・・・外国籍の親御さんが複雑な補助利用の手続を一人でできるのか?
行政の支援がこのように、「本人からのSOSの発信や、申請手続が適切になされる」事を前提としている為、どうしても漏れてしまう家庭が生じる。
生活困窮者の支援、ネグレクト家庭の支援・・・いろいろな支援団体を取材するなか、共通して聞くのは、「行政の枠組みで漏れてしまうケースの中に状況が深刻な家庭がある」という非常に重要な問題提起です。
この点、三枝さんは「行政の批判をしたい訳ではなく、行政の対応の限界や仕組み上の制約を踏まえた上で、ハーフタイムなど民間が何をできるか前向きに考えていきたい」。
家庭の声を拾う、として調査を進める文京区のこども宅食事業でも、こども宅食の利用申込みをしない世帯や、アンケートに無回答という場合もあります。
「答えられない家庭こそ、何か悩みがあるのではないか?」声を拾う難しさ・つながる難しさを感じます。
行政の枠組みで漏れてしまう理由として、窓口や相談が平日昼などに限られていることも一つあります。ハーフタイムでは妊娠や家出、自殺の相談などの対応で事務局長の三枝さんを中心に、早朝・深夜に駆けつけることも。
深刻な場合は、区職員・民生児童委員や弁護士のボランティアとも連携し、個別相談や、病院など専門機関へ紹介。
そんなハーフタイムさんは、行政からも頼りにされていますが、安定的な財源がなく寄付や助成金でなんとか運営を成り立たせています。
「最近の制度や助成金の潮流として、相談・支援事業についてすぐ『成果の見える化を』と言われる。しかし、子ども達の相談や支援は数ヶ月や1年間といったスパンですぐ変化が出る訳ではない。そこが難しい・・・」
一度介入したからと言って、虐待やいじめ等で自己肯定感が一度下がるとなかなか回復しづらく、長期的に進学や就職などライフステージの各段階で様々な悩みにぶつかることが多く・・・行政担当者が異動でやむを得ず交代していくなか、ハーフタイムさんでは8年近く就職まで見守った子どももいます。
専門性のある行政と機動力・柔軟性のある民間事業者。どういった協働の仕組みがあれば、深刻な悩みを抱える子ども、家庭を早期に見つけてサポートできるのか・・・? 課題が多いからこそ検討を続けたいと思います。
▼ハーフタイムさんの寄付受付はこちらから。「コーヒー1杯」月500円からでもできます。
https://camp-fire.jp/projects/view/46016
▼より専門的に知りたい方はソーシャルワーカー横山北斗さんの記事もぜひご覧ください:
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