奈良県奈良市に拠点をおく「チョウタリィの会」は、ネパールに障害を持つ子どもたちが通うための学校を建設すること、そして、女性たちの仕事づくりの支援を行う事を目的として1993年に発足した団体です。
団体名にある「チョウタリィ」という言葉は、ネパール語で「大きな木の下の広い木陰」と言う意味があります。その言葉には、人々が集まり、休息をし、新しい可能性に向かって巣立っていく場所と言う意味も込められているそうです。
設立から約30年、その「チョウタリィ」の意味を基本的な精神として、ネパールをはじめ、タイ・インドネシア・インドなど、様々な困難を抱えている子どもたちへの教育支援・自立支援の活動を続けています。
チョウタリィの会が「元気ごはん宅食」をスタートしたのは、コロナ禍の2021年です。
世界的なパンデミックで海外渡航が制限されるようになり、活動方針を大きく変更せざるを得ないなか、海外での活動経験を活かして身近な子どもたちの支援を行えたらと考えてのスタートでした。
コロナ禍以前、チョウタリィの会の活動は、アジアの子どもたちへの支援を目的に行われていました。しかし、コロナの感染拡大に伴い、アジアと日本を行き来しながらの活動も制限をうけるようになります。安全に活動を行うためには、アジアのプロジェクトを現地の提携団体と共同で進めていくなど、これまでと同じ活動が難しい状況になっていきました。
そんな中でも永年の活動を応援して下さる方は絶えず、海外の子どもたちの為にと文具や古着などたくさんの応援品が届けられていました。
「皆さんの思いを無駄にはできない、今は海外へ届けることはできないけれど、この応援の品物を必要としている人がきっといる」代表理事の山口さんは、活用方法を奈良市役所へ相談し、文具や古着などを贈る活動「文具バンク」を2020年にスタートしました。お渡し日は毎週日曜日。事務局で必要な方へお渡ししています。
文具バンクには、たくさんの子どもたちが足を運んでくれます。いつしか顔見知りになり親しくなる中で、山口さんは、「家に帰ってもご飯がない」とおなかをすかせているのに食べることができない子どもたちがいることに気が付いたそうです。
「おにぎり作ったからお家で食べてね」「一緒にごはん食べていく?」
山口さんは子ども達に声をかけ交流をするようになっていきました。
――支援者から届く文具もこども宅食でお届けしています
チョウタリィの会がこども宅食への参加を決めたのは、奈良市子ども育成課からの勧めがあってのことでした。
奈良市では、平成29年度より「子どもの豊かな未来応援プラン(奈良市子どもの貧困対策計画)」として子どもの貧困対策を推進しています。
コロナ禍になり、その重要性が高まってきていることから、「奈良市子どもにやさしいまちづくり条例」に基づき、子育て世帯への経済的支援の充実・子どもの居場所確保・生活支援、教育支援の充実に取り組んでおり、フードバンクや子ども食堂の立ち上げにも力をいれ官民一体となった取り組みが進んでいます。
「海外の子どもたちへの支援活動の経験を活かしてこども宅食をはじめてみませんか」
担当課から提案をうけた当初は「私たちにできるのか……」と不安もあったそうですが、文具バンクを通して知り合った地域の子どもたちの為にと、活動を始めることを決められたそうです。こども宅食は2世帯からのスタートでした。
――奈良市のフードバンク・活動を応援してくださる地域の方からもたくさんの品物が届きます
チョウタリィの会では、奈良市から紹介があった世帯へ月に2回、食料品や生活雑貨、文具などを届けています。現在の登録世帯は19世帯49名。うち17世帯はひとり親世帯です。生活保護世帯も多く、その親世帯もまた生活保護という世帯もあります。
「給食が唯一の栄養をとる手段という子どもたちがこの日本にいるという実感が、こども宅食をはじめるまでありませんでした。」とおっしゃる山口さん。
清潔な衣服を身につけていない。真冬の寒い部屋で半袖で過ごしている。小学生くらいの子が学校に行っている様子がない。など、こども宅食で出会う子ども達の様子が、これまで出会ってきた東南アジアの貧困世帯の子どもたちと同じ雰囲気を持つことにも驚きを感じたそうです。相対的貧困、それを見るからに超えている世帯がある。活動当初の想像を超え、貧困は身近なところで多くおこっていたのです。
――地域の福祉作業所と連携して手づくり弁当もお届けしています
こども宅食の訪問は月に2回。9人のスタッフが手分けしてお届けを行っています。
訪問時には、お届け品の確認や世間話など、利用世帯の状況を知るためのコミュニケーションを心がけていますが、訪問に対してウェルカムな家庭ばかりではなく、会話できずに玄関先に品物を届けるだけのこともあります。特にはじめての訪問はお互いに緊張もありぎこちなさを感じる事も。そんな時こんな嬉しい言葉と出会いました。
「うわー美味しそうな弁当!!」
お届けした弁当を見るなり喜びの声を聞かせてくれたのは中学生の男の子でした。
その子の言葉と明るい表情につられるように山口さんは、「困っていること、必要なことがあったら言ってね。おばちゃんたちが用意できなくても、用意できる人がきっといるから、繋ぐからね」と伝えることができました。
そう伝える事ができたことで山口さんは、私たちにもできる事がきっとある、と安堵感と共にやりがいを感じられたそうです。
利用者とのコミュニケーションは基本はメールで行っています。親しくなった方とはLINEを交換し近況連絡なども行えるようになってきました。
お届け時会話ができなかったご家庭から、メールやLINEで後日「宅食すごくおいしかったです。ありがとうございました。」「いただいた品、とても役にたっています。」とお返事がくるようにもなりました。そんな嬉しい情報があった時、山口さんは、スタッフと共有し喜びを共に感じるようにしているそうです。
スタッフの中には、利用者さんとの会話を難しいと感じる方もいます。また、宅食に行って、子どもや家庭の様子を知ることが心苦しく、行くことが辛くなるという方も。
支援はしたいけれど辛い思いも感じてしまう。そんな仲間の気持ちに寄り添う時間も作るようにしているそうです。
月に一度行っているスタッフ会議では、訪問家庭が今より少しでも問題解決できるようにするにはどうしたらいいのか。少しでも希望を持った生活を送ることができるようにするのにはどうしたらいいだろうかを一番の目的として、訪問先で感じた家庭の様子や相談事などを共有し、アイデアを出し合って必要な支援へと繋いでいけるよう相談を行っています。
喜びや困りごとを共有することで、スタッフもやりがいを感じ、より充実した活動へとつながっているのです。
――準備の時間はいつも笑顔がたえません
チョウタリィの会では、SNSや奈良市の広報誌を通して、活動内容を地域の方へお伝えしています。こども宅食をはじめて3年。その意義や思いが地域へ届き、活動が拡がりをみせています。地域の方からはこども宅食に使ってくださいと、新鮮なお野菜や箱いっぱいのバナナ、丁寧に手作りされたマスクなど多くの品物が届くようになりました。ランドセルや七五三の衣装を届けて下さる方もいて、利用者さんにとても喜ばれています。
また昨年末には、民生委員さんのお力添えをいただき「餅つき大会」も企画しました。当日は200名を超える子どもたちが参加し、子どもたちからは「嬉しすぎて胸が張り裂けそう」という感想が届くほど。
コロナ禍で社会に閉塞感が漂う中、子育て世帯が抱えるストレスは大きく、こんな関わりを子どもたちは求めていたのだと実感する機会になったそうです。
「子どもたちの笑顔を守る事は大人の義務。活動を通して、人々が繋がることで、ご家族が和やかに生活していけるようになる日がきっとくる。可能になると信じられてきました。」とおっしゃる山口さん。こども宅食を通して地域の持つ課題に触れることで、社会の中で孤立しない、孤独を感じない支援を行っていきたいと強く感じられているそうです。
年齢・立場を超えて集い支えあえる居場所(地域)になるように。
チョウタリィの会は、地域と共に活動を行っています。
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