こども宅食応援団は今年2月7日〜3月31日、厚生労働省の補助事業である「ひとり親家庭等の子どもの食事等支援事業」に参加しました。同事業の目的は、新型コロナウイルスの影響を受けて生活が苦しくなったひとり親世帯に向けた食料品を支援することです。
「ひとり親家庭等の子どもの食事等支援事業」では、こども宅食応援団と、関連団体である認定NPO法人フローレンス(以下、「フローレンス」)が共に政府に対して必要性を訴えてきた「政策セカンドトラック*」が採用されました。この新たな取組みの成果もあり、こども宅食応援団は全国で活動する50団体に対して総額8000万円の助成金を支給し、約1万世帯へ支援の手を差し伸べることができました。詳細をこの記事にてご報告いたします。
*政策セカンドトラックとは:自治体を介さず、国が民間団体に直接補助を行うことで政策をユーザーに届ける仕組みのこと。詳しくは後述の通りです。
報告を行う前に、「ひとり親家庭等の子どもの食事等支援事業」が誕生した背景について簡潔にご説明します。
こども宅食は2020年、厚労省の補助事業「支援対象児童等見守り強化事業」として政策化されたことは繰り返しお伝えしてきた通りです。当初は単年度事業として進められましたが、おかげさまで2022年度も継続しています。しかし実際には、「この財源を活用してこども宅食を実施したい」と手を挙げる自治体は約4%にとどまっているのが現状です。政策化されてもほとんど活用されていないのです。
自治体の事情は理解できます。職員の方々は通常業務に加えて、新型コロナウイルス関連の対応で仕事量が増えており、余裕がないことがほとんどです。また「支援対象児童等見守り強化事業」の予算が来年度も組まれる確約がないこと、自治体が国と費用を折半することも、事業化を決断しづらくしています。
しかしこうした状況が続けば、各地の支援団体の活動が資金不足により十分に実行できず、結果としてご家庭が困ってしまいます。コロナ禍で仕事を失ったり、収入が落ちたりしてこども宅食を利用したいと希望される方からの相談は増えつつあります。少しでも多くのご家庭の力になるためにも、どうにかする必要がありました。
助けを求める家庭は増えているのに、こども宅食事業に取り組む自治体は少ないまま。そこでこども宅食応援団とフローレンスは2021年春、この状況を改善するために政策を実現する新たな仕組みを厚労省に提案しました。特に強く求めたのが、政策の流れの変更でした。
政策の運営主体は自治体ですから、通常は数多くある政策の中から地域の実情に応じて自治体が必要なものを選択し、自治体からも一部予算を充て、それを実行するというフローを辿ります。これを「政策ファーストトラック」と呼びます。
しかしこのやり方では自治体が手を挙げない政策はその地域で実行されない、ということになります。そこで自治体を通さずに、国が民間団体に直接委託したり、助成金を支給したりできるようにするのはどうかと考えたのです。「政策セカンドトラック」という試みです。
(出典:フローレンス「こども家庭庁八策」)
結果として同年末に補正予算が組まれ、短期事業ではあるものの「ひとり親家庭等の子どもの食事等支援事業」の政策化が決定しました。同事業では国と民間支援団体の間に「中間支援法人」を置き、自治体に代わる運営主体の役割を担うことになっています。
政策セカンドトラックでは自治体を介さない流れですが、支援活動において自治体が重要な役割を担っていることに変わりありません。そのため、同事業においても支援団体は自治体との連携に努めることとなっています。
それでは、厚労省の補助を受けこども宅食応援団が実施した「全国こども宅食実施団体への活動助成事業」の活動報告に移りたいと思います。
こども宅食応援団は、前章で紹介しました「中間支援法人」として、支援団体への資金援助や物資の助成を行いました。
また、こども宅食応援団は支援団体が助成金の申請をウェブフォームで行えるようにし、申請作業の簡略化に努めました。
「全国こども宅食実施団体への活動助成事業」は短期事業のため、申請〜助成受け取りまでをスピーディーに行う必要がありました。約2ヶ月の間に公募から助成団体の決定、助成金の申請や審査、支給などを時間的な制約を受けながら進める必要があり、簡略化は必須だったのです。
これまで支援団体、こども宅食応援団双方が課題に感じていたのが、厚労省指定の申請書フォーマットに自由記述欄が多かったことでした。たとえば、事業内容や活動実績を書く際、どのような内容をどれくらいの量で記入するかは書き手の判断に委ねられており、内容にばらつきが生じていたのです。中には審査を行う側が知りたい情報が盛り込まれていなかったケースもあり、書き直しによってさらに手間がかかることもありました。これは申請書をチェックするこども宅食応援団にも言えることで、自由記述であるがゆえに、内容の確認に時間を要していたのです。
そこで厚労省に掛け合い、Wordと同じフォーマットであることを条件にウェブ申請フォームで助成金申請を行える環境を整えました。自由記述では支援団体が「何を」「どのように」書けばよいかがわかりづらかったことから、記入すべき内容を明記するようにしました。たとえば、「事業実施目的及び補助金の申請理由」への回答は自ずと絞られます。このような質問については予め回答を用意し、チェックボックスをクリックするだけですむようにしています。こども宅食応援団が記入マニュアルを作成し、申請画面にリンクを貼り、疑問点をその場で解決できるようにもしています。
また経費を記入する欄には「誰が」「何に」使うのかを記載する項目を用意し、審査をする側が状況を把握しやすくしました。以前は、経費に計上された「人件費」がいったい何にかかっているのかが明記されておらず、計上が妥当かどうか判断できないことがありました。加えて自動計算機能やエラー表示機能を付けることで、記入ミスを防げるよう工夫しています。「消耗品の計上は○%まで」のように計上できる金額の上限を表示し、上限を超える数値を入力した場合にエラー表示が出るようになっています。
とある支援団体は、「ウェブフォームで申請をしたことで、以前よりも申請に必要な時間が3分の1ほどに減りました」と話しており、手応えを感じました。
「全国こども宅食実施団体への活動助成事業」に参加した支援団体からは、続々と喜びと感謝の声が寄せられました。一部を紹介します。
「春休み期間中には給食がないため、お子さんの食生活に不安があります。そんな中で緊急支援に活用できたことが嬉しかったです」
「実施期間中に3月3日のひな祭りがありました。いただいた資金を活用してひな祭りスペシャル弁当を作り、こうした季節を感じる日本の文化を子どもたちに体験してもらえました」
「配送品が充実したことで、とても喜んでいただけました。より関係性が深化したように感じます」
政策セカンドトラックによって、全国の団体に向けて助成事業を行うことができ、また助成金支給までの期間が短縮したことで、より多くの団体の活動を支援することができました。さらに、たった2ヶ月という短い期間で、支援団体の皆さんのご尽力により、生活に苦しむ約1万世帯への緊急支援ができました。
しかし課題もあります。通常のこども宅食では食支援のほか、その後の状況に応じて専門機関への紹介といった継続的なサポートを行います。しかし「ひとり親家庭等の子どもの食事等支援事業」はあくまでの緊急的な食支援に限った事業なので、ご家庭にできる支援内容は食支援のみに止まってしまうのです。
とある支援団体からは、次のような要望が寄せられました。
「支援家庭を増やせたものの、事業が終了した後のことを考えると手放しで喜べません。もちろん当団体で継続してサポートを続けますが、予算にも限りはあります。食支援だけではなく継続的な家庭への伴走支援もできる事業に発展することを期待しています」
「ひとり親家庭等の子どもの食事等支援事業」をより効果的に実行するためには、短期事業ではなく長期事業である必要があります。今回の成果をふまえ、同事業の来年度の継続が検討されている状況で、これは大きな一歩と感じています。
この記事では政策セカンドトラックの仕組みをよりイメージしやすくするため、「自治体を介さない」と表現しました。しかし、家庭のサポートには地域の支援機関の連携が必要不可欠であり、その中心となるのは自治体です。民間が自治体にとって負担となっている部分をカバーし、地域と一体となって事業を推進していくのが政策セカンドトラックの主旨です。
これからも、こども宅食応援団とフローレンスは、地域での官民連携の推進、そして「ひとり親家庭等こどもの食事等支援事業」の継続を目指してロビイングを始め、国に訴えかけていきます。
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