こども宅食応援団は、10月23日にこども宅食応援団初の「第1回こども宅食サミット」を開催しました!全国のこども宅食関連事業者を始め、実施を検討している民間団体や自治体関係者、有識者、国会議員等100名以上にご参加いただきました。
2017年7月に文京区でスタートした、生活の厳しい家庭に定期的に食品を届ける「こども宅食」。この「こども宅食」をモデルに、全国で食をきっかけにしたアウトリーチ型(※)の事業が次々と立ち上がっています。
この動きをさらに全国的なムーブメントにし、持続可能な取り組みにしていくために、全国の事業者が一同に介する「全国こども宅食サミット」を初めて開催しました。
当日のプログラムと、各登壇者のお話をご紹介致します。
■日時:2019年10月23日(水)10:00〜17:00
■場所:六本木グランドタワー(ウイングアーク1st株式会社) 東京都港区六本木3丁目2−1
■主催:一般社団法人こども宅食応援団(事務局:認定NPO法人フローレンス)
キッズドアでは、ひとり親家庭や生活保護受給世帯の学習支援を東京や仙台で行っており、毎年2000人くらいのお子さんをみています。
日本の出生数は第一次ベビーブーム(1947年から1949年)の頃は260万人であったが、その後出生率は減り続け、2019年には90万人を割るまでになっており、ピーク時から比較すると1/3になっている現実があります。
日本は生活が豊かになり、出生率がここまで低くなって社会で育てるこどもの数は減っているに関わらず、かたやお腹がすいている子どもがたくさんいるということは、社会が抱える大きな課題です。
日本の現状を見て「何かしなければいけない」と動き出した人が今回のこども宅食サミットに集まっていて、このような人たちが日本を変えると考えています。
◆登壇者:フローレンス/こども宅食応援団 代表理事:駒崎弘樹
「こども宅食」の大きなポイントは、従来の福祉が役所の窓口に困難を抱えた当事者が直接行って支援を要請する「申請主義」に基づいて設計されていたのに対し、食品の配送を通じて支援者と家庭との接点を作り、ニーズや課題を把握する「アウトリーチ型」を採用しているところにあります。
ライフスタイル、価値観、社会からの目線など様々な理由で、窓口に行けない、行くことに抵抗がある世帯は少なくない。こうした家庭では、経済的な困窮を始め、子育てのストレスや離婚、失職、病気など様々な要因で家庭の状況が重篤化するようなことが起きても、外からは見えず、支援の手が届くことはありません。
厚生労働省「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(2019)」によると、実際に、子どもの虐待が起こっていた家庭では、「行政の子育て支援制度」などを使えていなかった人の割合が高かったことから、家庭の状況が深刻化する前に、行政などの社会資源とつなげることがとても大切だと考えています。
現在、こども宅食事業については、地域の特性を踏まえて事業モデルをアレンジした形で、全国にひろがりを見せています。地域によって実施規模や実施主体は異なりますが、共通しているのは「コレクティブインパクト(さまざまな強味をもった異業種の団体や企業など、複数プレイヤーが力をあわせることで、個別では解決できない社会的課題へのアプローチ)」型の運営であることで、民間と行政が連携して事業を推進しています。
少しずつ「こども宅食」事業の発展とともに、課題も明確になってきています。
・フードバンクの増加や食品ロス削減法案の施行を受けて、どのように食品を安定的に確保していくか
・「支援」や「重篤化の予防」といった可視化しにくい成果をどのように定義するか/みえる化するか
・既存の制度と紐付けがなく財源がない「こども宅食」の事業安定性をどうやって確保するか
とくに、日本の福祉の制度にこうしたアウトリーチの仕組みが含まれていないことは大きな課題で、どうやって財源確保をし、制度にビルトインしてくのかを考えていきたいと思います。
アウトリーチの形を実現していくことで「親子のつらいを見逃さない社会」を目指したい。子育てしているとつらいことはたくさんあるが、ひとりで抱えない、地域社会が手を差し伸べる・様々なものをもちよって支えになる、懐深い、優しくて、温かい社会。
「こども宅食」は、そのような社会を作るため、有効な手法の一つとなると信じています。
佐賀、宮崎、新潟、長崎で始まった5つの取り組みについて、活動の紹介。
佐賀県佐賀市「こどもおなか一杯便」
◆登壇者:北川副小学校運営協議会 おなか一杯便事業部 大坪氏
「地域の困りごとは地域で解決しよう」をキャッチフレーズに、小学校の校区を対象にして自治会長・まちづくり協議会の会長・民生委員・児童委員など、地元のステークホルダーをどんどん巻き込み、市民力で地域の生活が厳しい状況の食生活を支援している。小学校と連携してチラシを配布する、webで応募可能にするなど、申し込みのハードルをさげる工夫をしています。
「人を支援できる人は人から支援されたことのある人」という話を聞きますね。
おなか一杯便の支援を受けた子どもたちが育ち、困っている人を支援するような将来へつながると嬉しいです。
佐賀県佐賀市「とどけYELL」
◆登壇者:こども宅食応援団 今井 ※登壇者欠席のため代わりに発表
年々増加するひとり親家庭。ここ20年で約35万人増加し、100万世帯を超えることが近年の調査でわかっています。「とどけYELL」の福島氏は、自身もひとり親だった経験を活かし、佐賀県内でひとり親家庭のサポートを12年前からやっていました。
児童養護施設の入所者をサポートする活動を行う中で、施設にいた児童が退所してしまうと連絡手段がなくつながりが切れてしまうという問題に直面。ひとり親家庭の場合でも同様の問題が起きていると感じ、「とどけYELL」を開始しました。
食品宅配時には各家庭15分のヒアリングを実施しており、なにか困りごとが無いか、雑談しながら相談に乗っています。
市のこども家庭課と協力し、市がつながりたくてもつながれなかった家庭に食品を届ける、食品に限らず学用品などニーズに合った品物を届ける、など、利用家庭の生活に丁寧に寄り添う形で支援をしています。
宮崎県三股町「みまたん宅食どうぞ便」
◆登壇者:三股町社会福祉協議会生活支援 松崎氏
社会福祉協議会(以下、社協)の職員としてアウトリーチへの課題感をずっともっていたが、社協のこれまでの活動ではつらさを抱えた親子にリーチできず、どうしたらよいかと模索していたときに文京区こども宅食に出会い、直感的に「これならいける」と感じました。
「余ったからどうぞ」という形で食品を提供し、困っている家庭が福祉サービスと感じることのないようにかわいらしいデザインのwebサイトを作る、LINEでの申込みを採用する申し込みの心理的なハードルを下げることに注力しました。
配送物は地元の農家からもらった野菜など生鮮食品が中心。オーガニックの野菜を使って「貰って嬉しい」ものにする、食品とレシピを同梱する、問題の解決を焦らずコーディネーターがこまめに見守るなど、支援の実務経験を生かした独自のアイデアによるアウトリーチを実現しています。
本事業を導入したことで、これまで社協では出会えなかった家庭にリーチし、解決できなかった課題の解決に取り組むことができています。家庭や子どもの変化を確実に実感できており、引き続き、外から見えない”つらい”の出口を親子と一緒になって探していきたい。
新潟県新潟市「にいがたお米プロジェクト」
◆登壇者:にいがたお米プロジェクト事務局長 細野氏
2016年から、東京都豊島区の「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」を参考に、新潟市東区で妻やボランティアとこども食堂「こどもの茶の間」を立ち上げました。いまでは毎回60名の親子が参加する規模になりましたが、困っているご家庭にピンポイントでアクセスできない壁を感じ、こども宅食モデルに辿り着きました。
県内最大のフードバンクからお米(年間6トン)の供給を受け、2018年から、新潟市で「にいがたお米プロジェクト」の立ち上げ新潟市、生協を巻き込みながら、現在100世帯以上に食品を届けています。
利用家庭の満足度は80%と高く評価をされています。
新潟市内に児童扶養手当の利用家庭は約1.3千世帯おり、現在の100世帯(カバー率は1割)から拡大するため、安定的な食品の確保が課題であると感じています。
長崎県長崎市「フード&グッズ つなぐBANK」
◆登壇者:一般社団法人 ひとり親家庭福祉会ながさき 事務局長 山本氏
長崎市は平地が少なく、斜面に家が立ち並んでおり、食品を自宅に配送するのは手間と時間がかかり、車が入れないような場所に家があることもあります。そうした土地柄を鑑み、自宅に見えない形で届ける宅食ではなく、会員制で知られない場所に食品を取りに来る「宅所」事業を今年10月に立ち上げました。
相談支援の仕事に長年関わってきたが、切羽詰まって深夜にかかってくる電話もあります。生活の厳しい家庭の家へ訪れると、冷蔵庫が空っぽであることもありました。
日々子どもと向き合うなかで、食材だけではなく総合的支援の必要性を感じてきました。
離島が多い長崎で「長崎版こども宅食」をつくる為、周りに知られない居場所に取りに来る「宅所」モデルとしました。
「宅所」では、2カ月に1回、企業などから提供を受けた米や乾物、学用品などを無償で配る予定。総合的なソーシャルワークを特徴とし、県ひとり親家庭等自立促進センター(社会福祉士、精神保健福祉士、産業カウンセラー)、弁護士事務所、児童心理治療施設(心理セラピスト、児童指導員、家庭支援専門相談員、被虐待児個別対応職員)などと連携します。
困っている家庭と、専門家の橋渡しを行い、厳しい状況の家庭こそ支援をしっかり活用できる体制を整えています。
パネルディスカッション「データで進む福祉・変わる福祉」
◆登壇者:産総研人工知能研究センター 高岡氏、特定非営利活動法人OVA 土田氏、特定非営利活動法人フローレンス 今井
◆司会:日本ファンドレイズ協会事務局長/こども宅食応援団理事 鴨崎氏
福祉分野ではデータ活用、可視化のための取り組みはまだまだ始まったばかりですが、様々なステークホルダーが支援を行うために連携するためには重要なテーマです。具体的な事例とともに、「データで進む福祉・変わる福祉」で議論しました。
産業技術総合研究所のAI(人工知能)を活用して児童相談所での虐待ケースを分析するアプリを開発し、三重県で実証実験を行っています。
虐待対応では対応件数に対する担当者の人手不足が深刻であり(支援者一人あたりの担当事例数はこの25年で約50倍に増加している。)、省力化していくためには、本当に危険な状況にある子供を把握するための分析とそれを実行するためのデータが必要です。また、福祉分野ではいろんな機関が連携するため、専門性の違いや温度差が生まれやすい構造にある。そうした中で問題を共有するためには客観的なデータを活用することが有益であると考えています。
OVAでは、約1,000件以上のネット上での相談支援を提供しています。スマートフォンやPCでWebでの検索をする際に「つらい」「死にたい」といった特定のワードを入れた際に、検索連動型の広告を表示、広告をクリックするとメールやLINEでの相談に繋げるページに誘導する、という形で自殺予防を行っています。
同区でこども宅食を利用する家庭に実施したアンケートの結果を示した上で、コレクティブインパクト型の運営をしながら、抽象度の高い「支援」や「予防」といったテーマに取り組むためには、客観的なデータが不可欠であると強調しました。
パネルディスカッション「NPO・企業・行政が取り組む!親子に食品を届ける仕組みを作るには」
◆登壇者:食品ロス問題専門家 株式会社office 3.11 代表 井出氏、全国フードバンク推進協議会 事務局長 米山氏、ココネット株式会社 代表/こども宅食応援団理事 河合氏
◆司会:フローレンス・こども宅食応援団代表理事 駒崎
各地にフードバンクが立ち上がり、食品ロス削減法案が施行される等、取り組みは進みながら、まだまだ本当に必要な家庭に食品が行き届いているとは言い難い状況です。
依然として、実施団体共通であり最重要課題は食品の安定的な確保です。
企業や地域の団体と連携しどのように食品を届けていくべきなのか、そのためにどんなネットワーク、仕組みが必要なのか議論をしました。
食品ロス問題はSDGsのターゲットにも含まれており、国際的にも重要なテーマになっています。国内では年間643万トンの食品ロスが発生しており、世界食料援助量380万トンの1.7倍もあります。
国は率先して食品ロス削減のための実証実験や食品業界の巻き込みを実施。商慣習(3分の1ルール)の見直しや賞味期限の年月表示化、見込み発注から受注発注への転換など改善を行っています。
フードバンクは、食品提供事業者から食品を必要とする団体等に食品を移動・在庫する機能を担っています。
生活困窮者自立支援の相談窓口の設置、こども食堂の急増により需要は増え続けており、19年9月には100団体になったものの、食品の取扱量はあまり増えていないこと、活動団体は人手不足で、食品を冷蔵したり冷凍したりする施設や配送する専用の車がないなど、インフラが整っていないことが指摘されました。
買い物弱者向けに買い物の配送事業を行っているココネットの河合氏からは、品仕分けや配送の手間コストなど、フードバンクを進める上で物流の面の課題が多くあると指摘がされ、地域にある店舗ではなく、企業単位で解決策を考えていく必要があると話しました。
クロージング・セッション「食のアウトリーチ支援をどのように制度にしていくべきか」
◆登壇者:元厚⽣労働副⼤⾂・参議院議員 ⼭本⾹苗氏、総務大臣政務官 衆議院議員 木村やよい氏、衆議院議員 初鹿明博氏、成澤廣修 文京区長
◆司会:フローレンス・こども宅食応援団代表理事 駒崎
「こども宅食」は、食品の確保や配送、関係性の維持・構築、相談支援へのつながりなど、事業活動が幅広く、人件費を始めとして一定の費用がかかります。また、利用家庭から入手した支援につながるような有用な情報を、効果的に活用していくためには、自治体や地域の関係団体との連携は不可欠です。
つまり、①安定的な財源の確保、②地域で支援をしていくための包括的な仕組み/実行体制づくりが必要になりますが、これらを実現するためには、既存の制度との紐付けが必須です。
この点において、持続可能な取り組みにしていくために「食のアウトリーチ支援をどのように制度にしていくべきか」というテーマで、フローレンス・こども宅食応援団の代表理事 駒崎がファシリテーターとなり、政治家各位、文京区長と議論されました。
成澤区長からは、文京区で「こども宅食」を始めた経緯として、文京区は比較的裕福な区域であると言われていますが、見えない貧困家庭はあるという背景が冒頭に語られました。見えない貧困を、見えないままに支援するのが「こども宅食」であり、周囲に困窮していることを知られたくない世帯とつながる手法として有効であるとしました。
初鹿氏は、自分の地元江戸川区では区内でも平均所得が低い地域であるため、貧困家庭も比較的多いとお話されました。
江戸川区では、『おうち食堂』という、家にご飯を作りにいきますよ、という取り組みをしています。活動する中で、そもそも家に調理器具がない家庭もあることなど家庭の状況がわかってきました。食材を届けるということは”作れない”方にもリーチできる江戸川区独自の取り組みです。
木村氏は、こども食堂は四年前くらいから一気に広がりを見せたが、「こども宅食」という形をとることで家庭訪問を敷居を低くしてアセスメントしながら何が必要なのかを探ることができると語りました。
京都でもニーズがある取り組みなので、学習支援など実施している団体とコラボしながら「こども宅食」事業開始予定で準備しています。
山本氏は、こども宅食の仕組みを始める段階で(2016年)フローレンス駒崎から相談され、これはいい!と思ったと話しました。
大阪の豊中市でもこども食堂が30個近くあるが、共通の悩みとして「本当に来てほしい人に来てもらえない」という課題がありました。
山本氏が長い間取り組んできた生活困窮者自立支援法に触れ、生活保護を受けていらっしゃる方、ということではなく、経済的困窮世帯や、孤立している状態なのに「助けて」と声を上げられない、幅広い方々が対象としてあえてゆるく作ってあるとのこと。こども宅食のように、アウトリーチの手法として「待つ」ではなく困っている人のところへ「行く」事が必要であり、食はハードルの低い入り口です。
フローレンス駒崎から、何とか現状で使える制度が無いかと質問を振られた山本氏は、以下の資料を参考に、「解決型ではなく、予防的な意味合いも含め、つながり続けることの柱を立てたことは重要」としました。
どこで、どのように支援とつながったとしても、行政だけではなく民間も含めて連携してつながり続ける対人支援のアプローチが必要であると語られました。
出典:厚生労働省「地域共生社会に向けた包括的支援と 多様な参加・協働の推進に関する検討会」 (地域共生社会推進検討会)中間とりまとめ(概要)
また、成澤区長は、社協が取り組む多機能な居場所(※)が「つながり続けるアプローチ」を可能にするとし、こども宅食は子育てに特化しているが、地域とのつながりを、多世代が交流する多機能な居場所に委ねていくこともできると考えているとしました。社協の地域福祉コーディネーターが心を解きほぐすところからはじめる取り組みは文京区でも既に始まっており、拡大しつつあります。つながり続けていく事で、必要な支援につないでいく。その為にも食を届けるアウトリーチである「宅食」をしっかりと安定していきたいと考えていると語りました。
※参加者同士の交流を深める活動を行いながら、地域の皆さんが誰でも自由につどえる、地域の居場所づくりを積極的に推進していく。そこでの交流を通じて、誰もが地域で孤立することなく健康で安心した生活を送り、より良い地域づくりを目指していく文京区の取り組み。
クロージングセッション後の質疑応答で、一般参加者からは、支援する側が元気づけられたケースの共有や、こうしたアウトリーチの取り組みが誰でも使えるようにぜひ制度化してほしい、一般的な行政手続きのデジタル化を加速してほしい、という声が挙がりました。
こども宅食応援団は、第1回こども宅食サミットを終日満員の盛況のまま終演。
文京区で始まった取り組みが、全国各地で広がりをみせ、一同に介して意見交換を行うことで、参加者からは「大変勉強になった」「あらためて、良い取り組みだと感じる」といった前向きな意見が多く見られました。
こども宅食応援団は、佐賀県を拠点とし、資⾦調達には、ふるさと納税制度を活⽤し、2019年9⽉より、4,000万円を⽬標に寄付を募っています!本プロジェクトでは返礼品を⽤意せず、集まったご⽀援の全てを事業の推進に活⽤致します。
▼ぜひご支援をお願いいたします!
こども宅食を応援したい
こども宅食をやりたい・知りたい