近年子どもの貧困が注目される中で、毎日の食費の捻出にも苦労している家庭があることが分かってきました。春休みや夏休みの長期休暇には栄養状態が悪化し、痩せてしまう子どもがいることも。こども宅食はそのような家庭に食品などを配達することで、家庭の「困った」を少しでも減らす活動をしています。
“両親が小学生の子どもふたりを置いて出て行ってしまい、おばあちゃんがお孫さんを年金とバイトの給料で育てているご家庭に出会いました。
おばあちゃんが入院してしまい、ご自宅へお子さんたちの様子を見に行ったんです。元気な男の子達でした。話の中で「昨日何食べた?」と何気なく聞いたんです。そしたら「マヨネーズとケチャップ食べたよ!」と笑って言いました。
私は一瞬意味が分からず冷蔵庫を開けました。冷蔵庫には何も入ってない状況でした。”
(「どんな声でもいいから、聞かせてほしい―支援の現場で見た #つらいが言えない―」より)
一方で、現代の日本は「飽食の時代」と言われています。コンビニやスーパーにはいつでもところ狭しと食品が並べられ、多くの人が好みや気分に合わせて、食べたい物を選びます。そして売れ残った物は、次々と廃棄されていくのです。
これらの廃棄予定の食糧を集めて福祉施設やこども食堂などに再分配するのが、「フードバンク」です。1967年にアメリカで始まり、日本では2000年頃からフードバンクを行う団体が設立されるようになりました。
食品を安定的に確保することが事業の継続に関わる「こども宅食」。例えば、毎月1家庭に5kgの食材を30世帯に届けるだけでも、年間1.8トンの食品が必要です。
そんな「こども宅食」にとって、フードバンクの機能が同時進行で広がっていくことは必要不可欠。しかし、フードバンクは順調に広がっているとは言えない状況です。
なぜフードバンクは増えないのか?そもそも、日本でこんなにも食糧の偏りが起きている根本原因は?こども宅食が全国に広まり定着するために、必要なこととは?
こども宅食コンソーシアムのフローレンス駒崎とココネット株式会社代表の河合が、食品ロス問題の専門家やフードバンクの専門家とともに語ります。
全国フードバンク推進協議会 事務局長 米山広明
食品ロス問題専門家株式会社office 3.11代表 井出留美
こども宅食理事/ココネット株式会社代表 河合秀治
こども宅食理事/認定NPO法人フローレンス代表 駒崎弘樹
駒崎:『今日はよろしくお願いします。こども宅食をやっていくに当たって、1つの大きな壁が「どうやって食糧を安定的に確保してくか」という問題です。
文京区のこども宅食でも非常に米不足が問題になっていて、企業の方に会えば「米はもってないですか」と聞くのが習慣になってしまいました。米だけじゃなくて、他のものでも欲しいのですが、なかなか企業の方が寄付するまではいかないというケースが、ままあります。
そういった状況の中で、どうやって安定的に食糧を確保していくか……。「2019年10月に施行された食品ロス削減推進法で少しは食糧が確保しやすくなるのだろうか?」、「フードバンクと提携すれば食糧は確保できるんじゃないか?」と、こども宅食を行う事業者としては色々期待しているところがあります。井出さん、日本の食品ロス問題について教えてください。』
駒崎の投げかけをうけ、井出さんから日本の食品ロス問題の深刻な状況と、その原因が共有されます。
井出:『今、日本では643万トンが廃棄されています。これは、東京都民が1年間に食べる量と同じくらいです。世界食糧援助量380万トンの1.7倍を日本だけで捨てていることになります。
日本の食品ロスが減らない理由は、4つあると考えています。1つめは、日本の「欠品できない」という文化。メーカーは棚に穴をあけてしまうと、スーパーや百貨店やコンビニと取引停止になってしまうんです。だからメーカーは絶対に欠品できない。欠品しないために、作りすぎてしまうのは当然です。』
井出さんから、この「欠品ペナルティ」をはじめ、「3分の1ルール」「賞味期限表示の仕方の問題」など、日本の食品ロスが減らない4つの原因が共有されました。それは、日本人の細かさや数字に忠実な真面目な性格が裏目に出ているとも言えるものでした。
しかし食品メーカー出身の井出さんはまた、商慣習を変えることは難しいと言います。
井出:『食品廃棄を減らすために最優先で取組むべきなのは、作りすぎない、買いすぎない、売りすぎないという「リデュース」の考え方。ところが、それは日本では商習慣の問題で変革が難しい。なので「リユース」を強化していく必要があります。ここで活躍するのが「フードバンク」や「フードドライブ」です。』
井出:『10月に施行された食品ロス削減法では、都道府県・市町村が職員ロス削減推進計画を策定することになっています。フードバンク活動の支援も明記されていますが、自治体が計画を立てて実行に移すのを待っていては遅いと思います。
フランスは世界に先駆けて「食品廃棄禁止法」を作りました。その関係者が「私たちは法律ができる前から、市民の意識啓発をやってきた」とおっしゃっていました。日本でも法律が全てではないし、法律がおりてくるのを待つ必要はないのです。先進的な企業や自治体はすでに色々な取組みを始めています。』
続けて、全国フードバンク推進協議会の米山さんから、全国のフードバンクの現状が共有されました。
米山:『フードバンクの役割は、食品提供事業者である食品メーカーや小売店、小売業、卸売業、生活協同組合、農協、農家から寄付していただいたものを検品して、賞味期限などをチェックして保管します。そして受取先団体とマッチングして提供するという流れです。』
フードバンクは2000年頃から国内で始まり、2017年には77団体に増加。2019年9月に100団体に達したそうです。団体数は増加する一方、食品の取扱量は4000トン前後にとどまっており、増加していません。それはなぜなのでしょうか?
米山:『まず、人手不足があります。有償のスタッフがいる団体は全体の4割程度。設備が不十分な団体が多く、冷蔵庫や冷凍庫があるという団体は5割しかありませんし、4割の団体が運搬に必要な車を所有しておらず、スタッフ個人の車を使用しています。
ほとんどがボランティアで運営されていますから、広報まで手が回りません。すると当然、認知度はあがりません。知らなければ企業も食品の寄付を検討することもないので、寄付が集まるはずがない。まずはここをクリアすることが必要です。』
米山さんからは、フードバンクを運営するスタッフたちの厳しい現状が語られました。NPOやボランティアに関わったことがある人ならば、人手不足の中で運営することの大変さ、広報に手が回らない歯がゆさは、誰もが経験したことがあるのではないでしょうか。
しかし米山さんが所属していた山梨フードバンクは、人手不足の中でも食品寄付の量を増やすことに成功したそうです。米山さんは「地道な努力が大事だ」と言います。
米山:『食品の寄付をしてくれる企業の開拓については、特に地道な努力が必要です。企業への営業も重要ですが、広報活動が非常に重要になります。』
駒崎:『それは僕も非常に感じますね。新聞に出たり記者会見をしたりするのも「そういうことはしたくない」という関係者の方もいらっしゃるんですが、そういう広報活動をすることで、支援してくれる企業は確実に増えます。信頼感ももてますから。』
米山:『信頼感については、これも地道ですが、フィードバックを行うことも大事ですね。寄付していただいた企業に定期的に活動報告に行ったり、支援世帯のお子さんから手紙をいただいた時には、それを企業の方にも共有しました。そうすることで、継続的な寄付につながります。』
しかし、そういった地道な活動をしてもフードバンクに寄付が集まらない理由には寄付として「食品」を扱うことの難しさがあるようです。
米山:『「食品」を扱いますので、企業からは食品の管理や責任の所在、フードバンク団体側の保管や運搬や提供をしっかりして欲しいという要望が当然あります。それに応えられない団体であれば、簡単に寄付はできないというのが企業の立場です。』
米山さんから語られた企業が食品を寄付する難しさに対して、井出さんが海外での取組みを教えてくれました。
井出:『フードバンクの拡大のために、一番必要だと思うのは「よきサマリア人の法」という法律です。アメリカなどにあるのですが、万が一食品事故が起こっても、寄付者に責任を問わない、善意でやったことであれば責任は問わないという免責ですね。そういった法整備ができるといい。アメリカだけではなくて、世界で食糧寄付が盛んな国では、必ずそういう免責制度があります。
メーカーに勤務していた頃、色々なメーカーさんに「フードバンクって実際どうなの?」と聞かれることが多くて。石橋を叩いてからじゃないと渡らない、「リスクがあるんだったら捨てた方がまし」と思ってる企業が非常に多い。そこを「よきサマリア人の法」は乗り越えてくれる。そこを担保してくれるなら寄付をしようと思える。志がある企業にとって、良い制度だと思います。』
米山:『なるほど。僕も日本のメーカーの「寄付したい」という強い思いは感じるんです。担当者は「やりたい」と強く思ってる。でも責任はどうするの?とブレーキを踏む側の人たちもいて、社内でそこを説得できない。そういう具体的な法律があれば、説得もしやすい。免責制度を導入してくださいという働きかけを、現場からしっかりしていきたいと思います。』
この井出さんと米山さんのやり取りを受け、ロビイングの経験が豊富なファシリテーターの駒崎も、現場から要望を伝え続けていくことが重要だと言います。
駒崎:『食品ロス削減法ができたから大丈夫かなとのんびりして受け身でいると、現場で役に立たない法律になってしまう。もっともっと、政治家や国に声をかけていかなければいけないと思います。』
米山:『食品ロス削減法の中には行政がフードバンクを支援するということが明記されていますが、行政からの支援をまつのではなく、支援を呼びかけたいです。現場から課題を伝えて、要望を伝えて、自分たちが法律を活用していくという気持ちでやりたいですね。』
続いて、ココネット株式会社代表でありこども宅食応援団の理事でもある河合から、企業の立場から見えていることが語られました。ココネットは買い物弱者対策として、地域の小売店から高齢者の自宅への配送を行っています。そこでは地域の小売店の現状が見えると言います。
河合:『地域の小売店も、食品ロス削減法に関して「色々な法律が変わるぞ、どうするんだ」ということを経営トップから担当者にわーっと言われているようです。でも「自分たちでどこかに配送すればいいの?どう動けばいいのか分からない」という状態ですね。』
「企業側も迷っている」という現状に対して、井出さんが国内での先進的な取組みを紹介してくださいました。
井出:『岡山県を拠点にする「ハローズ」さんというスーパーでは、80店舗近くあるすべての店舗で、こども食堂や福祉施設に寄付をしてるんです。』
引用:株式会社ハローズ https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/ondanka/mottai/attach/pdf/mottai-84.pdf
ハローズさんは、フードバンクの方や福祉施設の方が直接近隣の店舗に取りに来るという方法をとっているそう。他にも、各店舗のデイリー食品と呼ばれる日持ちのしない食品を物流センターに集め、そこにフードバンクが取りに来て近隣の児童福祉施設に配っている大手スーパーの西友の事例も紹介されました。
このような「フードバンクや必要としている団体や施設に直接とりにきてもらう」という方法は、調整やマッチングの手間がかからず、企業側にとっても寄付をしやすい方法と言えそうです。
また、島根県安来市の「直接型フードバンク」の事例も紹介されました。この「直接型フードバンク」は、どこに食品があるかという情報を把握して流すという役割だけを社協が担い、必要な団体はその情報を見て自分たちで企業とやりとりをするという仕組みだと言います。
井出:『これは、運ぶ人手もお金も食品を保管する倉庫もないという安来市の現状に合わせたフードバンクの形です。安来市のように、小さくてもその地域にあった事例、小さな成功事例を作っていくことが大事です。全国規模じゃなくても、どんなに小さな取組みでも、それが全国にあれば問題は解決していくと思うんです。』
井出さんが最近視察した宮古島で新しく始まったフードバンクの形も、宮古島のあり方に合わせた形だったそう。沖縄では主婦の方が、自家用車で自宅でフードバンクを始めて、すでに10年以上続いているそうです。
駒崎:『固定観念にとらわれず、色々なやり方で、地域に合わせたモデルをどんどん作っていけば良いんですね。こども宅食と似ています。こども宅食もその地域にあったやり方でその地域の形を作っていくことで、全国に広まり始めています。すごく色々なヒントをいただきました。今日は、ありがとうございました。』
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