全国各地で活躍する、こども宅食の実施団体さんと「つながって」、事例を「きいて」、「かんがえる」、こども宅食シェア会。
8月に行われた第1回では「こども宅食から見る、社会連携」をテーマに、長野県長野市で病児保育やこども宅食を実践する、NPO法人えんまるの共同代表の岩間千佳さん・岩間淳さんに登壇いただきました。
これまでどのような社会連携に力を入れてきたか?を軸にお話を伺いながら、地域にある既存の社会資源をどう活用するか、また学校や企業との連携・協働について、参加者の皆さんと一緒に考えました。
えんまるさんについての記事はこちら
NPO法人えんまるは、2018年から訪問型病児保育の取り組みを開始。利用者は延べ100世帯以上と活動の規模を拡大していく中で、自らSOSを出すことができない「困窮・孤立するひとり親家庭」が多数存在することを目の当たりにし、2020年に「こども宅食えんまる便」を立ち上げました。
立ち上げ当初は、行政などの専門機関に足を運び、「課題を抱える家庭の支援のつなぎ先」として連携をはかろうとしたものの、なかなか取り合ってもらえないという壁にぶつかりました。しかし、これをきっかけに、こども宅食を行っていく上での「2つの目標」が明確になったそうです。
1.まずは支援世帯100名を目標に支援を積み重ねていくこと。
2.地域の様々な方々と連携しながらこども宅食に取り組むこと。
公的機関や専門機関と連携をはかる前に、食材を安定的に入手できる体制づくりや、地域の幅広い分野の方々と連携することを目指しました。
目標を具体化し、こども宅食の活動を伝えるチラシの配布やSNSでの情報発信など、様々な広報活動に取り組むことで、少しずつ周知され、連携の輪が広がっていきました。
例)
・包装資材会社と連携し、えんまるの活動を伝える「名刺」の制作
・県内外のお寺と連携し、お供え物の「食材」や「文具」などのお裾分け
・地域のお寺と連携したイベントの開催
・大学と連携し、学生さんと一緒に梱包ボランティアの実施
・大学、児童家庭支援センター、医師と連携し、ひとり親家庭向けの居場所づくり
・資金支援者の皆さんと連携し、クリスマスにホールケーキをお届け
・地域のスポーツチームと連携し、ホームゲームに利用家庭を無料招待 など
いくつか、エピソードをご紹介します。
●長野市の長谷寺との連携
地元のお寺を通じて寄付されたたくさんの文具は、お母さんを亡くした息子さんが「母の供養になれば」と、お供えくださったものです。「こどもの日のプレゼントとして、支援されているお子さんにお届けしてくださいね。」と、えんまる便が支援している世帯数に合わせて、文具店で予約購入してくださったそうです。
●長野県立大学との連携
毎月、長野大学の構内で学生たちと一緒に食材の梱包を実施しているのも、えんまるならではの特徴です。ひとり親家庭のお子さんの誕生月には、お菓子のラッピングとメッセージカードを作成し、食材とともに渡しています。受け取ったお子さんが「うわぁ〜嬉しい!絶対なくしたくない!」と大喜びしながら、宝箱にしまっている様子を見たお母さんは、思わず涙したそうです。
●ペットボトル飲料を支援いただいているアサヒ飲料長野支店と連携
子どもたちが大好きなカルピスを使った、楽しい実験のイベントを開催しました。カルピスという身近な商品を題材に、長野県立大学の学生さんと一緒に乳酸菌の秘密を観察し、こどもたちは大興奮でした。
●地域の団体や個人からの支援物資
地域の皆さま(団体・個人)から、夏にお菓子と一緒に蚊取り製品が届いたことがあり、「アースノーマットが必要な家庭はどこだろう?」とスタッフで話し合いが行われたこともあったとのことです。
このような話し合いができるのも、各家庭の状況を把握しているこども宅食の仕組みだからこそと述べました。
岩間さんが大事にしているのは、毎月地域のおばあちゃんたちから物資を集め、提供してくださる支援者の「少しでいいのよ。関心を持って、一人一人ができること、やれることを少しでいいから行動に移すことが大事なのよ。」という言葉。
こども宅食は、食支援にとどまらず、困難を抱えているご家庭に向け、得意なこと、できることをそれぞれが持ち寄り、こども宅食の取り組みをみんなで力を合わせて行うこと。「みんなが見守っているからね」という一人ひとりの思いを大切に、丁寧に繋ぐことも大事な連携の一つであると語りました。
講演後に行われた質疑応答パートでは、「こども宅食を通じた地域連携の先に、どんな地域を目指していきたいか」という質問があがり、その中でも「一人ひとりが出来ることを」というキーワードに焦点が当たりました。
えんまるの活動に、皆さんが高い関心をもって聞いた、第一回こども宅食シェア会。
最後に、岩間さんからのメッセージで締めくくりました。
「私たちは大きな団体ではないですし、そもそも社会を変えるなんてことは自分たちだけで出来るとは思っていません。ただ、少しずつ自分のできる事とか、得意なことを持ち寄ってやっていけば良くなるんじゃないかなと思います。例えば、大学生がお子さんの誕生日カードを作ってくれたことは、とても大きな力になってますし、地域のおばあちゃんがちょっとお菓子を寄付してくれた、そういうことも、ご家庭にとってはとても大きな力になっています。本当に、それだけでいいんですよね。
みんなが、それぞれの得意な部分をちょっとずつやっていけば、必ず変わっていくと思います。私たちも、活動を続けていくうちに、最初は連携がとれなかった行政からも『この家庭を見守ってほしい』と連携の依頼が入るようになりましたし、周囲の空気が『みんなでちょっとずつ良くしていこう』というものに変わっていくと実感しています。
また、支援してくださる皆様に、毎回きちんとお礼を伝えるという意味での〝発信〟は大切です。それぞれに丁寧にお礼を伝え、どんな支援につながっているのかを伝えることで、その人自身がまた取り組みを広げてくれるようになります。ご家庭に対しても、一つ一つの物資に対して〝誰が応援しているのか〟をきちんと伝えていくこと、目の前のことをコツコツやっていくことが、結果的に地域の連携を広げていくことにつながるのではないかと思います。」
今後も、こども宅食応援団は各地の実施団体の皆さんと共に、学び、より良い活動につなげるための勉強会を予定しています。
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