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2021.06.24

「親子の孤独・孤立を防ぐ!アウトリーチ型食支援の全国普及に向けて」――第2回全国こども宅食サミットで開催された「政策提言ディスカッション」の模様をお届け!

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2021年4月13~14日の2日間にわたって開催された「第2回全国こども宅食サミット」。今回は、1日目最後のプログラムとして実施された「政策提言ディスカッション」の模様をまとめました。 

 

登壇者

元防衛大臣/衆議院議員 稲田 朋美 氏

子どもの貧困対策推進議員連盟幹事長/衆議院議員 長島 昭久 氏

自由民主党 副幹事長/衆議院議員 木村 弥生 氏

厚生労働省 子ども家庭局 家庭福祉課 虐待防止対策推進室長 山口 正行 氏

一般社団法人こども宅食応援団 代表理事 駒崎 弘樹(ファシリテーター)

 

衆議院議員・稲田朋美氏による挨拶からスタート

――議員・厚労省室長を招いて行った「政策提言ディスカッション」は、衆議院議員の稲田朋美氏による挨拶で始まりました。

稲田氏:私が会長を務めるこども宅食推進議員連盟では、こども宅食を骨太の方針に盛り込むことや、来年の予算を獲得することを目標に動いています。

こども宅食が含まれる「支援対象児童等見守り強化事業」は、国の補助率が100%の事業です。補正予算ができて、支援も拡充しています。当初は自治体あたり実施団体は1つのみとされていたところ、複数団体が実施できるようになるなど、議連が立ち上がったことで連携強化や成果につながりました。

ただ、せっかく充実した予算が割り当てられているにもかかわらず、有効に活用されていない現状があります。今回のディスカッションのテーマとして提案された点に加え、政府備蓄米の活用状況についても検討や改善が必要です。皆さんの意見交換の成果を議連の中で共有し、一つひとつ結果を出していきたいと思います。

こども宅食が含まれる「支援対象児童等見守り強化事業」とは

――まず、昨年より施行された取り組みで、こども宅食が含まれる「支援対象児童等見守り強化事業」について、厚生労働省虐待防止対策推進室の山口正行室長から説明がありました。

 

山口氏:支援対象児童等見守り強化事業は、国が31億円の予算(※)を計上して2020年よりスタートした取り組みです。新型コロナ対策で親子が家にこもりがちになることで児童虐待のリスクが高まっている現状を受け、民間団体を活用した子どもの見守りを強化するため施行されました。
※第2次補正予算。第3次補正予算で36億円を計上。

見守り強化事業の補助基準額は1か所当たり約970万円と上限が定められており、国による補助率が100%。つまり、市区町村が見守り強化事業に取り組んだ場合には、国が上限内で費用の全額を補助します。

令和2年度第3次補正予算案:厚生労働省資料より) 

事業実施の担い手は、子育て支援を行う民間団体や子ども食堂、こども宅食、学習支援など。定期的な訪問等により、困りごとを抱えたご家庭のお子さんを見守ります。

地方自治体には、要保護児童やその親御さんに関する情報の交換や支援内容の協議を行うために設置された「要保護児童対策地域協議会(以下、要対協)」というものがありますが、事業の実施者である民間団体等は、必ずしも要対協の構成員である必要はありません。また、対象者は「要対協の支援対象児童等として登録されている子ども ”等” 」となっており、要対協に登録されている子ども以外にも、地域社会から孤立しがちな子育て家庭、妊娠や子育てに不安を持つ家庭等の子どもや妊婦さんが含まれます。

なお、「見守り強化事業に取り組みたいが、地域に適切なNPOがない」という自治体は、社会福祉協議会に実施を任せるなど、自治体の実情に応じて柔軟な対応が可能です。


――続いて長島氏、木村氏、山口氏、ファシリテーターの駒崎によるディスカッションを開催。ここでは、見守り強化事業の全国普及を妨げる壁にどう立ち向かうべきかについて、それぞれの視点からの意見を聞くことができました。 

人口の多い自治体も利用しやすい制度にするにはどうすべきか

駒崎:見守り強化事業の費用は国が全額を補助してくれますが、人口1万人の自治体でも100万人の自治体でも1団体あたり970万円しか使えません。つまり、人口の多い自治体では大型事業を実施するのが難しく、対象児童が多ければ多いほど成り立たなくなります。この課題について、皆さんはどうお考えですか。

 

山口氏:最近、実施団体の皆さまからの要望に応え「1法人が複数の事業所を持っている場合には、事業所ごとに申請可能」とルールを変更しました。これで少しカバーできればと思っています。

 

木村氏:支援対象児童等見守り強化事業にはせっかく36億円もの予算がついているにもかかわらず、令和3年3月時点で65市区町村、5.1億円しか使われていない現状がありますよね。

財務省に「予算が使われていないのなら不要」と判断されることのないよう、自治体の規模や状況に合わせて柔軟に実施できる仕組みにしなければならないと考えます。

 

長島氏:見守り強化事業は皆さまの要望を受けながらどんどん変化していく、発展途上でフレキシブルな制度です。最初は「1自治体1団体のみ」から始まりましたが、それでは人口の多い地域では使えないことが分かり、1自治体につき複数の団体が担い手になれるようになったという経緯もあります。ですので、事業規模に応じた予算の増加も強く要望したいですね。

例えば自治体の規模を3段階に分けて、それぞれにふさわしい予算を配分することができれば、もっと支援団体が参加しやすくなるのでは。その際はきちんとした団体に手を挙げてもらえるよう、この事業が遂行できているかを検証する仕組みも整えるべきだと思います。

(当日投影資料より)

見守り強化事業における、NPOと自治体の連携の重要性 

駒崎:自治体が支援に後ろ向きだったり、マンパワーがなく手を挙げるのが難しかったりといった事情を抱えている場合、自治体が壁になり民間団体による支援が進まないこともあります。

コロナ支援のために立ち上がった「NPO等が行うきめ細やかな生活支援等や自殺防止対策」事業のように、見守り強化事業でも自治体を通すルート以外に、NPOが手を挙げて国から直接補助金を受け取る仕組みを実現できないのでしょうか?

 

山口氏:見守り強化事業は、子どもたちをどのような支援につなぐか、そのために地域の資源をどう使っていくのかを地域で話し合い、見守りを行う事業です。ですので、地域の現場に近いところで運営していただくことが望ましいと思います。自治体の中で意識を持っていただいて、実施団体と自治体が連携して取り組んでいくことが大事ではないでしょうか。

 

長島氏:見守り強化事業では、担い手となるNPOがきちんと支援を行えるかが一番の懸念点のため、事業をスタートさせるときは行政を噛ませざるを得ないのではないでしょうか。支援を通して子どもの異変に気づいたときも、その気づきを知らせる先は行政になります。NPO内で全部解決するのは難しいので、NPOと自治体の連携は欠かせないと思います。ただ、NPOから専門的支援を行う行政機関へつなぐ体制ができており、ある程度事業が回るようになっているのならば、実施団体にお任せするのは良いと考えます。

木村氏:困窮している当事者は、自分が支援の対象かどうかも分かっていないことがあります。困窮の実態については現場の近くにいるNPOがよく知っていますが、情報を持っているのは自治体です。マイナンバーをもう少し有効活用できるようになれば、今までの申請型の福祉ではなく、プッシュ型の支援も可能になっていくでしょう。

他機関と連携して支援するとき、“個人情報の壁”をどう乗り越えるか

駒崎:多くの自治体や実施団体の皆さんから、個人情報共有ルールについての悩みが寄せられています。例えば、保育園が「家庭での食事量が少ないと思われる園児がいて心配。こども宅食の訪問時の様子はどうだったのか教えてほしい」と言っても、(要対協の)支援対象児童ではない、あるいは生命の危機があるような重篤な状態でもなければ、個人情報保護法の壁もあり、ケースの共有が難しい現状があります。

駒崎:また、「行政に対する拒否感が強く、個人情報共有の本人同意が得られない」という場合。子ども家庭課から「行政に対する拒否感が強くて会えない家庭について、こども宅食の見守り時の様子を教えてもらえませんか」と言われても、本人の同意がなければ情報を共有できず、自治体との連携も絵に描いた餅です。こうした壁は、どのように乗り越えればいいでしょうか。

(当日投影資料より)

山口氏:デジタル庁の創設に伴い、個人情報保護法関連のガイドラインを作っていくため、それによって整理できるかもしれません。また、いくつかの自治体に「こういったケースではどうしているのか」と確認したところ、例えばこども宅食を申し込むときに「必要な際は家庭の状況について自治体に報告をする」と包括的に同意を取っている団体もあると分かりました。あるいは協定を結ぶなど、いろいろなやり方がありますが、いずれにしても個人情報の共有に係る統一的なルールとしては要対協の仕組みしか今はない、というのは事実なので、まさに課題だと思っています。

 

長島氏:(要対協の)支援対象ではない世帯・児童の中に孤立しているご家庭や子どもが隠れており、これを見つけ出す手段の1つがこども宅食のため、(個人情報を共有できる)要対協に入っている人たちしか対象にならないのであれば制度の意味がありません。情報共有のためのルール制定が求められます。

また、要対協とNPOの連携がうまくいっていない現状もありますので、この交通整理をしっかりやってもらえるよう、双方から行政への働きかけが必要だと思います。

 

木村氏:個人情報の問題は子どもの貧困だけではなく、認知症の方を地域で見守るにあたっても重要になります。令和4年4月に改正個人情報保護法の施行やデジタル庁の創設によってデジタル化・可視化が進むことに期待しながらも、政治家として動かなければいけないと思っています。

(当日投影資料より)

全国の実施団体の「ノウハウ不足」をどう解消すべきか

駒崎:こども宅食はマニュアルを渡したら誰でもできるというものではなく、地域の実態に合わせてさまざまなモデルを構築する必要のある事業です。こども宅食応援団が全国の実施団体に向けて行った調査では、実施団体は近隣地域と連携するコミュニティや事例に関する情報などを求めていると明らかになりました。こうした部分に関しては現状各々の自助努力に委ねられていますが、どうお考えですか?

 

山口氏:それぞれの取り組みの質を高めるため、横のつながりを強めていく、好事例を広げていくというのはとても有効だと思います。こども宅食応援団には、その担い手になっていただくことを期待しています。

 

長島氏:こども宅食応援団が研修を実施して好事例を学ぶ機会を設けているのは素晴らしい取り組みで、引き続きやっていただきたいと思っていますが、本来は国が主催すべきものではないでしょうか。全国のすでにこども宅食を実施している自治体、やりたい自治体だけでなく、こども宅食をまだよく知らない自治体も参加する研修を厚生労働省が開催し、どのような取り組みなのかを知ってもらう努力をする必要があると思います。。同じような人口規模の自治体同士でお互いの情報をシェアすることも有益であると考えます。

 

木村氏:自治体はそれぞれ規模も異なり、特色は十人十色です。例えば農産物を地産地消するとか、地元で頑張っている企業が製品を寄付することなども、面白い地域おこしになり得るでしょう。いろんなベストプラクティスを共有し合って、互いに「そういうやり方もあるのか」と気付きを得る機会があればいいですね。

参加者から寄せられた質問にそれぞれの立場から回答

――ディスカッションの最後には、参加者の方から「民間の力を生かそうとする流れを作るには、今後個人情報を守るだけのものから、住民の福祉のために自治体が有効に活用していくという流れになっていってほしいと思いますが、皆さんいかがでしょうか」との質問が寄せられました。長島氏、木村氏は次のように回答しています。

 

長島氏:個人情報を有効に活用すべきというのは、本当にそうだと思います。情報の安全性を行政がしっかり担保し、有効に活用できる環境を作っていきたいですね。こども宅食は、令和3年度の予算は取れましたので、令和4年度の予算をしっかり確保できるよう頑張ります。

 

木村氏:個人情報保護について杓子定規に考えることで、助けられる命を助けられなかったら元も子もありません。「個人情報は本質的に何のためにあるのか、改めて考えていきましょう」と問題提起していきたいです。

 

――また、山口氏からは結びにこんなコメントをいただきました。

 

山口氏:行政からの支援を受け入れにくいというご家庭もある中で、こども宅食のような民間の力を借りるのは有効だと考えています。見守り強化事業の予算にはまだだいぶ余裕があるので、もっと皆さんに使っていただきたいですし、だからこそ今回のサミットのようなセミナーも有益です。長島先生から「国でも周知や呼びかけをすべき」というご意見がありましたが、これを受け止め、もっと活用していただけるように努めていきます。

皆でスクラムを組み、日本の親子を支えていきたい

駒崎:政治家や官僚の方々が「よりよい制度を」と努力を重ね、実現に至った見守り強化事業。各地の実施団体の皆さまにより多くの親子を助けていただくことで、この事業が評価されれば、来年も予算を獲得することができます。

実施団体の皆さま方はこの事業を支えていく存在であり、われわれこども宅食応援団は個々で頑張っていらっしゃる皆さまを後ろでサポートする存在です。実施団体の皆さま、それを支える応援団、そして制度を作っていかれる政治家や官僚の方々、みんなでスクラムを組んで、日本の親子を助けていきましょう。

 

書いた人:小晴
テキスト起こし:ブラインドライターズ


こども宅食応援団では、こども宅食実施団体の全国調査を行い、全国での実施実態を元に発見された実施上の課題を、こうして議員や官僚の方とディスカッションし、こども宅食の事業をより良いものにできるよう活動しています。
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また、事例の共有や勉強会の実施などを行い、各地でのこども宅食実施の伴走支援を行っています。

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