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2024.04.11

多様なニーズに応えるために 官民が手を取り合う。「行政と の連携」をテーマにこども宅食シェア会を開催しました

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全国各地で活躍するこども宅食の実施団体と「つながって」、事例を「きいて」、「かんがえる」こども宅食シェア会。こども宅食の活動を軸に全国で活躍する民間団体と自治体職員がオンラインで集まりました。

2024年3月に行われた第2回のテーマは、「こども宅食における 行政との連携」でした。民間団体が日頃の活動において行政との協力は欠かせませんが、立場の異なる両者が互いの思いを伝え合い、理解を深めることが重要です。

前半では、愛知県岡崎市で障害児支援やこども宅食事業を行う「NPO法人花音(かのん)」と岡崎市ふくし相談課の柴田さんが官民連携について体験を話しました。

後半では、全国から参加した15団体(18人)が各々の経験や考えを共有し、よりよい官民連携を目指すため「行政との連携における課題や疑問点」について意見を交換しました。

官民が手を取り合い、母親の孤立を防ぎ、子どもの安全を守る

NPO法人花音の設立は、2010年6月。障がいを持つ人と家族が地域で普通に暮らせることを目指して活動が始まりました。主な事業は児童発達支援事業と放課後等デイサービス事業で、2021年11月にこども宅食事業に参入し、岡崎市と協力して「子ども宅食KANON便」(以下、KANON便)の提供をスタートしました。

KANON便の対象は、18歳未満の子どもがいる生活困窮家庭。週1~2回食料や日用品を届け、ご家庭の困りごとを聞きながら適切なサポートを実施しています。

花音の担当者は、官民が手を取り合って成果を出したKANON便の事例として、20代のひとり親家庭へ行った支援を取り上げました。

この親子は生活保護を受給していましたが、行政との関係が希薄で連絡が取りづらい状況にありました。転機となったのは、岡崎市が主催するOKフードドライブのイベント当該親子が訪れたこと。市の子ども担当課が「KANON便」のチラシを配布し、親子が興味を示したことから申し込みに至りました。ここで、市はこの親子から同意を得て状況を花音に説明し、見守りの必要性を伝えたと言います。

「時折連絡が途絶えましたが、KANON便の利用により、つながりを持続できました。母親の孤立を防ぎ、子どもの安全を守る支援を今後も継続していきます」

相手の立場への理解が、行政とのコミュニケーションの第一歩

話題は、花音と岡崎市との出会いに移りました。両者はどのように連携を深めたのでしょうか。

花音と岡崎市の接点は、障がい児支援事業を通じて生まれました。関係構築のため、花音は市役所に出向いたり、こまめに連絡をしたりと地道な努力を重ねました。異動があっても、やりとりをした職員との関係は続いたことから複数の部署に顔見知りが増え、相談がしやすくなったそうです。

 


「行政を批判しないこと」も心がけたと言います。

「職員の方々は日々大変な思いをしながら業務に従事されています。そのことを理解し、感謝の気持ちを忘れないようにコミュニケーションを取りました。行政から依頼を受けた際には、極力受け入れるよう努めました」

市との連携を深めることによる利点について花音は、「既存制度の間にいる方々への支援ができるようになった」と発言しました。

「今ある制度では解決できない課題を抱える人々に対し、行政から私たちに相談が寄せられるようになりました。私たちは、単なる課題解決ではなく、支援が必要な人々とのつながりを大切にして活動していきます」と語ってくれました。

「一人でも多くの人をサポートするには、民間との連携が必要」

続いては、行政が感じる「民間団体と繋がることの利点」について、岡崎市ふくし相談課の柴田さんが話しました。

岡崎市では、全国に先立って重層的支援体制整備事業を進めています。同事業は、「市町村全体の支援機関・地域の関係者が断らず受け止め、つながり続ける支援体制を構築すること」を目的とし、「属性を問わない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」の3つの支援を一体的に実施しています。


重層的支援体制整備事業が進められている背景には、「課題の複雑化がある」と柴田さんは説明。従来は
個別の課題への対応が中心でしたが、窓口に来られない人や世帯全体が絡んだ問題、制度の間にいる人など、既存の制度だけでは支援しづらい層が増えてきたのです。

「こうした制度の間にいる方々への対応が、重層的支援体制整備事業の役割です。岡崎市役所は『断らない相談窓口』を掲げています」(柴田さん)

岡崎市は、2020年に「ふくし相談課」を新設。課にはふくし総合サポートフロア「ふくサポ」を設け、生活困窮者自立支援事業所や基幹型包括支援センターなどを置くことで、あらゆる層への対応を目指しています。

市の方針を実現するには、行政の中だけでなく、行政と地域の繋がり強化が求められます。柴田さんは「民間団体とご家庭を繋ぐのが私たちの大きな役割です」と話しました。

個人情報保護と支援の両立に課題

後半は、こども宅食応援団の原水敦がファシリテーターを務め、「行政との連携」をテーマに参加団体が話し合う場が設けられました。

多くの団体の関心を集めたのが、個人情報の取り扱いでした。適切な支援を行うためには、行政が民間に対して、要支援家庭の情報を提供することが有効です。しかし、個人情報保護法により、民間への情報提供には制約があります。

近畿地方の自治体からは、「外部に出して良い情報かの判断が難しい」との意見が寄せられました。

「こども食堂から『支援が必要なご家庭だと思う』といったご連絡をいただくことがあります。市は児童相談所に繋ぐといった対応を取るものの、民間の支援団体へ要支援のご家庭の情報を提供することはありません」

社会福祉法では、重層的支援体制整備事業を進める場合、「複雑な課題を抱える本人にメリットがある場合」には、法的根拠に基づいて本人の同意を得ずとも支援関係者間で情報共有できるとしています。

しかし、何をもって「本人にメリットがあるか」の判断は難しく、情報の取り扱いには慎重にならざるをえないのが実情です。

では、個人情報の壁を参加団体はどう乗り越えているのでしょうか。

「KANON便」では、申し込み時に本人が「支援機関への個人情報提示」への同意書を必要に応じて岡崎市へ提出しているそうです。これにより、専門機関への繋ぎがスムーズになります。

長崎県で活動する支援団体は、個人情報保護と支援を両立する工夫をシェアしました。同団体は食品と日用品を自宅に届けるのではなく、支援対象者が市の施設やホールに受け取りに来る形を採用しています。

「まず、市町村は児童扶養手当の現況届に各団体の公式LINEアカウントのQRコードが掲載されたチラシを同封して郵送します。その後、申込があれば、LINEでのやりとりが可能になります。そして、会場に受取にきた際に、受付に市町村の担当者と団体スタッフが同席し、本人確認をした上で食品や日用品などをお渡しする流れとなっています」

このやり方の場合、市は民間団体へ要支援家庭の情報を直接渡していません。市が家庭と民間団体との間に入ることで、個人情報保護と支援の両立を実現した事例です。

行政へのアプローチでは、事業への熱意と明確さの両方を伝える

ほかには、「民間団体は行政に対してどのようにアプローチすれば良いのか」にも関心が集まりました。参加団体の中には、「必要性を感じながらも、行政と繋がれていない」と話す人もいました。

岡崎市の柴田さんは、「市の職員の中には、宅食事業をよく知らない人もいます。そういった人でも事業がイメージできるよう、宅食を通じて民間団体がどう地域の役に立ちたいと思っているのかをしっかりと伝えることが大切です」と助言しました。

近畿地方の自治体からは、「行政に対して何をして欲しいのかを明確にお伝えいただけると、市がどう動けば良いかのイメージがしやすいです。宅食事業をするために、要支援家庭の情報が欲しいのか、食品の調達を市にお願いしたいのか、それとも助成金を知りたいのかなどですね。市がすぐに動けることなのか、現時点では無理でも検討の余地があることかなどの判断ができます」といった意見が挙がりました。

東北地方の自治体も「事業に必要な人員や費用などを提示してもらえると、議会に挙げやすいです。団体の活動実績があれば、それを示すことが大切だと思います」と発言しました。

各自治体のコメントから、民間団体が行政へアプローチをする際には、「事業への熱意と明確さ」がセットで求められると言えます。

行政と民間の考えにギャップが生まれたら、どうすればいいのか

参加団体の一つが、行政との関係に悩みを打ち明けました。「ご家庭と信頼関係を築いても、事業が1~2年で打ち切られてしまう。せっかく築いた関係が続かないのが残念」と心境を吐露しました。

自治体内で同じように感じる民間団体は複数あり、行政の方針に対して不満を抱いているそうです。別の団体も「市から『そのご家庭への支援は現在も必要ですか?』と、打ち切りを示唆されると話していました。「困っている人の助けになりたい」の思いにおいては、行政も民間も気持ちは同じはず。両者の間に、なぜ考えの隔たりが生まれてしまうのでしょうか。

岡崎市の柴田さんは、「支援対象児童等見守り強化事業は、主に虐待リスクが高い家庭への一時的なケアが目的。虐待のリスクが解消されれば支援を一度終え、少しでも多くのご家庭を支援しようとします」と行政側の考えを説明しました。

行政の方針は理にかなっているとはいえ、家庭は生活全般でまだ課題を抱えているかもしれません。そこで柴田さんは、「生活困窮者支援を担当する部署と連携することで、切れ目のない支援を続けられるかもしれません」と付け加えました。

目的が課題解決なのか、伴走支援なのかによって相談や連携する窓口を変えてみる。柴田さんは、そのような視点を持つことの大切さを示しました。

参加者の約9割が「今後の活動にとても役立つ」と回答

シェア会の最後には、参加者へアンケートをお配りしました。回答や感想の一部をご紹介します。

「様々な状況や支援をされているこども宅食があることを知ることができ、今後の活動の参考になりました」

「こども宅食シェア会という近い距離感で行政の皆さんのお話を直にお聞きできたことも大変貴重でした」

「行政への働きかけもおこなっていきます」

「信頼関係構築に努めたい」

全体では、87.5%が「シェア会の内容が今後の活動にとても役立つと思う」と答えており、参加者にとって学びや気付きの機会の多いイベントとなりました。

 

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