「支援対象児童等見守り強化事業」の一環として、令和2年度の第2次補正予算入りを果たしたこども宅食事業。これをきっかけに全国各地の自治体に広まり、現在では40団体がこども宅食応援団と連携したこども宅食の担い手となっています。
そんな中、2021年4月13日(火)14日(水)の2日間にわたり「第2回全国こども宅食サミット」を完全オンラインで開催!
「他地域のこども宅食の事例を知りたい」「こども宅食を始めてみたが、家庭との関係構築に悩んでいる」といった民間団体や地域の皆さん、支援対象児童等見守り強化事業の実施を検討する自治体や議員の皆さんに向け、事例紹介や政策提言ディスカッション、ワークショップなどのコンテンツを通して、こども宅食について学びを深める機会を提供しました。
■日時
・1日目:2021年4月13日(火)14:00~18:00
・2日目:2021年4月14日(水)10:00~14:00
■開催方法:完全オンライン
■主催:一般社団法人こども宅食応援団
サミットのオープニングとして、こども宅食応援団の代表理事・駒崎から基調講演を行いました。
新型コロナウイルスの流行以降、私たちの生活は一変しました。国内の自殺者の数は急増し、特に女性の自殺者が増え続けています。虐待と地続きと言われるDVの相談件数も、前年の1.5倍となっています。
感染症予防のために人との接触を減らす対策が社会全体で進み、地域のつながりが断たれたこともあり、親子の孤立はますます深刻な問題に。コロナ対策で三密を避ける必要があるため、「居場所型」の支援の実施が困難になるケースも見られます。
そんな中で親子のSOSをキャッチし続けたのが、全国のこども宅食実施団体です。食を届けながら親子の孤立を防ぐ取り組みは、この1年でさまざまな地域に広がりました。
2020年8月には「こども宅食推進議員連盟」が設立。国もリスクの高い家庭の孤立化に対する危機感から「支援対象児童等見守り強化事業」として31億円の予算を計上。こども宅食事業は、立ち上げから3年で予算化される運びとなりました。
駒崎は「私たちがこれから目指すのは、支援が届きにくい家庭を取り残さない、新しいアプローチを皆で作って広げること」と述べ、「行政から見えない層が支援につながらない」「関係構築が足りず支援につながりにくい」という2つの課題解決の必要性を強調。
「課題解決のために、全国の実施団体の皆さんと一緒に新しいアプローチの実践に挑戦し、事業を育てて他の地域にも広めていきたい。感染症対策がなされている今こそまさに、こども宅食のようなアウトリーチの正念場と言えるのではないでしょうか」と、参加者の皆さんに改めて協力を呼びかけました。
こども宅食応援団では、今年、こども宅食事業を実施する民間団体・自治体に全国初となる実態アンケート調査を実施。中間結果から見えてきたこども宅食の成果と今後の課題を、事務局の今井峻介が報告しました。
現在実施されているこども宅食事業(こども宅食型の国の補助事業を含む)のうち、58団体がアンケートに回答しました(全国27地域、都道府県のカバー率は57%)。担い手の半数以上をNPOや任意団体が占めており、多くはこども宅食以外にも地域で子育て支援事業を実施する団体です。9割が自治体の子育て事業担当を支援のつなぎ先にしています。
実施団体の7割以上が食品を購入することで確保していますが、フードバンクや企業への営業、メディアでの広報を通して集めることも。食品だけでなく、日用品や乳幼児向けの物品を送る団体も少なくありません。
多様な課題や事情を抱える家庭に対し、現場では申し込みや利用に対する心理的・物理的ハードルをさげるさまざまな工夫がなされています。また、ほぼすべての団体が、配送時の手渡し以外にも電話やLINEで利用家庭とコミュニケーションを取り、利用家庭との信頼関係を構築しています。
事業としての成果は以下の通りです。
また、利用家庭のうち、行政や支援機関が課題や状況を把握できていなかった世帯は1268世帯と全体の約2割。これまで支援が届かなかった家庭にこども宅食がリーチできていることがわかります。
実施団体が感じている課題はおもに2点。
1つ目は、事業を安定的に実施するための財源がない・金額が足りないこと。こども宅食は支援対象児童等見守り強化事業の補助金の対象ですが、実際に補助金を使えている団体は全体の半数以下という結果になりました。予算を現場で活用しきれていない実態が見えてきます。
2つ目は、自治体や地域の支援団体との連携が十分にできていないこと。支援対象児童等見守り強化事業の対象には、要保護児童対策地域協議会(要対協)の支援対象児童等として登録されている子どもが多く含まれますが、要対協と連携できているこども宅食実施団体は3割に留まっています。
今回の調査によって、全国の団体のさまざまなニーズが浮き彫りになりました。こども宅食応援団は、全国の実施団体に食品を定期的に届けるプラットフォーム事業の実現に向けた取り組み、全国の事業実施事例の情報提供、国や厚労省への提案につながるような地域の現状把握を通して、こうしたニーズに引き続き応えていきます。
※調査の詳細な結果については、別途ホームページ上で公開いたします。
こども宅食応援団が全国の事業と一緒に目指すのは、支援が届きにくい家庭を取り残さない新しいアプローチを皆で作って広げること。そのためには「行政から見えない層が支援につながらない」「関係構築が足りず支援につながりにくい」という2つの課題の解決が欠かせません。
2つの課題にこども宅食事業がどう取り組むべきかを実例を交えて紹介するため、ここでは「こども宅食の事業の流れ」の各段階に応じて3つのセッションが組まれました。
専門機関にたどり着けないご家庭のため、専門的支援への“つなぎ”として2019年に「つなぐBANK」を立ち上げた山本さん。児童扶養手当の利用家庭を対象に、日時・場所が非公開の会員制「宅所」事業を2か月に1回程度のペースで開設しています。
特徴は、会場で寄付食品をお渡しするだけでなく、医療や法律などの相談窓口を会場内に設けている点。行政の目が入りにくく、状況や支援ニーズが見えづらいご家庭を支援につないでいます。
つなぐBANKは、設立1年目は自治体の窓口にQRコード入りの申込みチラシを置く、実績のできた2年目以降は市役所から現況届の用紙と一緒にチラシを家庭に送付してもらうことで、必要な世帯に確実に情報を届ける「入口」を設計してきました。
さらに、宅所の開催日を週末にする、会場を毎回変え、日時・場所は利用者のみに通知、明るい雰囲気作りを心掛けるなどの施策によって安心感・信頼感を醸成し、必要な支援につなげる「出口」を設計。135世帯中120世帯が、初回来所時に長崎県ひとり親家庭等自立促進支援センターの会員登録につながるという成果が出ました。
こども宅食の「食品の配送→関係性構築→状況把握・見守り→専門的支援へのつなぎ」の工程で実際に動いている方には、“非専門職”の団体職員やボランティアメンバーも少なくありません。
そうしたメンバーが担う重要な役割について、宮崎県三股町でレシピ付きでこども宅食を行う「みまたん宅食どうぞ便」、江戸川区で買い物・調理支援をおこなう「NPO法人バディチーム おうち食堂」の各2名の職員の方にお話を聞きました。
非専門職メンバーが得意とするのは、ご家庭との関係構築。みまたん宅食どうぞ便では、支援を拒絶する方がいるご家庭とつながり、信頼関係を深める中で、時間をかけて必要な支援につなぐことに成功したケースもあったといいます。
おうち食堂でも、ご家庭と直接接するメンバーから親御さんへのいたわりの言葉が自然と出ることで、親御さん自身が「大切に扱われている」と感じ、次のステップに進めたという事例があったそう。
いずれの事業でも、専門的支援につなぐ前にまずはご家庭の状況を把握し、安心感・信頼を形成し、ご家庭に「課題に直面する心の準備」をしていただくというステップを踏んでいます。その過程で非専門職メンバーが果たす役割は、非常に大きなものと言えるでしょう。
ここでは、こども宅食で出会った「支援につなぐのが困難な事例」を深掘り。みまたん宅食どうぞ便の松崎さん、つなぐBANKの山本さん、山口県宇部市でこども食堂やこども宅食事業をおこなう小児科医の金子淳子先生に、3つの事例に対してご意見をいただきました。
これらの事例には、以下のような共通する課題が含まれています。
・親がSOSを出さない、状況を変えようとしない
・ “ぴったり”くる支援メニューが地域にない
こうしたケースに対し、登壇者の皆さんは「結果を急がず、つながり続けること」や「学童等との連携」「現状存在していない支援を少しずつ作ること」の重要性を指摘。また、親からのSOSだけでなく子どものSOSをきちんと拾い、地域の支援に活かすことの大切さを強調しました。
1日目の最後には、議員の皆さんをお招きし「親子の孤独・孤立を防ぐ!アウトリーチ型の食支援の全国普及に向けて ~現状と課題~」をテーマにしたディスカッションを設定。
駒崎がファシリテーターを務め、衆議院議員 稲田朋美氏の挨拶で始まったこのセッション。子どもの貧困対策推進議員連盟幹事長の長島昭久氏、自由民主党副幹事長の木村弥生氏、厚生労働省 子ども家庭局 家庭福祉課 虐待防止対策推進室長の山口正行氏に、事業の全国普及の前に立ちはだかる以下の「3つの壁」についての意見をいただきました。
支援対象児童等見守り強化事業は満額を国が負担する仕組みで、市町村の負担がないのが大きなメリットです。ただし、補助金は1団体あたり970万円までと一律のため、人口の多い自治体では予算が足りず、実施そのものが困難になります。
この壁に対し、長島議員は「支援対象児童等見守り強化事業は枠がかっちり決まっているわけではなく、変化し続けている仕組み。今後は事業規模を3段階程度に分けるなど、規模に応じた予算が出るよう要望したいです」と述べました。
支援が必要なご家庭を早期に発見するには、官民または民間同士の連携が不可欠です。しかし、個人情報共有ルールが不明確であるために他機関との連携がうまくいかないことは少なくありません。
山口室長・長島議員は、官民間の協定の必要性を指摘。木村議員は「デジタル庁の設立によって情報のデジタル化・可視化が進むことに期待しつつ、政治家として改善に向けて動いていきたいですね」と語りました。
こども宅食は全国での同一規格化、オペレーションの完全マニュアル化が難しいため、地域の実態に合わせたモデルの構築が欠かせません。事業実施団体・自治体は事業の設計から運営開始後までさまざまな課題に直面する一方、他地域の工夫や事例を学ぶ場・機会が不足している現状があります。
長島議員は「すでにこども宅食応援団がさまざまな場を設定してくれており、非常にありがたいですが、本来は国が担う役割ではないでしょうか」と指摘。駒崎は「国とこども宅食応援団が連携して学びの機会を設定することも十分考えられます。今後もこのような場を設け、皆さんのノウハウを共有し、これから事業を実施したい団体の方々に向けて情報を提供していきたいです」と意気込みを見せました。
2日目となる14日(水)は、「全国リーダーズと一緒に社会を変える!全国の親子のために”つらいを見逃さない”事業と政策をつくる」と題したワークショップを開催。2つのテーマについて、36名の参加者の方々にグループディスカッションをおこなっていただきました。
あるグループでは「宅食実施団体が訪問しても相談をするまでに至らない」という悩みが議題に。メンバーが「例えば、申込み案内のチラシには『法律相談』『就労相談』といったざっくりしたことを書くのではなく、『養育費相談』『お子さんの成長、言葉の相談』など噛み砕いて記載すると『自分のことだ、このことを相談したい!』と思っていただきやすい」とアドバイスすると、他のメンバーからも「参考になる」との声が上がりました。
ここでは、まだ地域にない社会資源を創り、継続する方法について各グループがディスカッションをおこないました。お互いの活動や対応方法を共有し合ったグループでは「SNSやマスコミを活用して寄付や人を集め、自団体で社会資源を作り出した」「行政の人に営業に同席してもらうことで協力者を増やした」「何度も県に通う、講演を行うなどの行動を通して関係性を築き、話を聞いてくれる人を増やしていった」などの経験談が聞かれました。
参加者の皆さんとこども宅食応援団メンバー一同が「つながるポーズ」で写真に収まることで、改めて「みんなで事業を育て、つらいが言えない親子を一世帯でも多く救う」という想いを確かめ合いました。
書いた人:小晴
各セッションの内容については、別途開催報告を掲載予定です。
※今回の全国こども宅食サミットでは、開催費の一部をカルビー株式会社にご寄付いただきました。
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