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貧困は自己責任でも他人事でもない。みんなが主体的に社会課題に向き合う社会を目指して―吉田浩一郎×駒崎弘樹対談

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SDGsという概念が周知された現代においても、日本には未だに「経済格差や貧困は自己責任である」という風潮が残っています。

生活保護世帯やひとり親家庭などに向けられる冷たい視線を、web上の声、周囲の人との会話、メディアの論調などから感じ取った経験がある方もいるのではないでしょうか。

しかし、コロナ渦で起こった社会の大きな変化によって、「貧困は社会の構造によって生み出されるもの。個人ではなく社会に責任がある」という考えが浸透しつつあるのも事実です。これまで貧困や経済格差を他人事だと捉えてきた方も、この問題と向き合わざるを得ない局面にきていると言えるでしょう。

そこで今回は、さまざまな活動を通じて社会課題の解決に取り組むビジネスリーダーである「株式会社クラウドワークス」の代表取締役社長CEO・吉田浩一郎さんと、こども宅食応援団/認定NPO法人フローレンス代表理事・駒崎弘樹が対談を行いました。
二人がこれまで取り組んできた社会課題解決のための活動や、貧困などの社会課題について思うこと、今後の日本の可能性について語ります。

プロフィール

【吉田浩一郎】
東京学芸大学卒業。パイオニア、リード エグジビション ジャパンを経て、株式会社ドリコム 執行役員として東証マザーズ上場を経験した後、独立。アジアを中心に海外へ事業展開し、日本と海外を行き来する中でインターネットを活用した時間と場所にこだわらない働き方に着目、2011年11月、株式会社クラウドワークスを創業。クラウドソーシングサービス「クラウドワークス」を立ち上げ、日本最大級のプラットフォームに成長させる。
【駒崎弘樹】
こども宅食応援団理事・認定NPO法人フローレンス代表理事。1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2005年日本初の「共済型・訪問型」病児保育を開始。08年「Newsweek」の“世界を変える100人の社会起業家”に選出。内閣府「子ども・子育て会議」委員複数の公職を兼任。一男一女の父であり、子どもの誕生時にはそれぞれ2か月の育児休暇を取得。

駒崎:吉田さんは先日、「こども宅食応援団」にお米を寄付してくださいましたよね。ご支援いただき、ありがとうございました。
吉田:私を含め「フローレンスさんといえばこども宅食」というイメージを持っている人は多いと思うんですが、いつから取り組んでいる事業なんですか?
駒崎:2017年に文京区でスタートした、まだ新しい事業です。実は文京区こども宅食は、フローレンスを含む6つの団体と文京区が協働しコンソーシアムの形で行っているんですよ。こども宅食応援団は、こども宅食を全国に広げるのがミッションで、2018年に開始して3年目となります。佐賀県を拠点に、宮崎・長崎・新潟などで立ち上がっており、各地のネットワークや土地柄を活かして活動しています。

こども宅食は、一言で表すなら「困っている家庭の子ども達に食品を届ける」取り組みです。しかし、実際は食品を届けるためだけに行っているわけではありません。食品をご家庭に定期的に届けながら、困りごとを気軽に相談してもらえるような関係をつくるという目的があるんです。
日々の生活で精一杯で余裕がなくなると、「困っている」と言えなくなる人は多い。もちろん、役所の窓口に相談に行く余裕もありません。
そうやって周囲に助けを求められないままでいるうちに、状況がいっそう深刻化してしまうんです。こども宅食では、食品のお届けを通して定期的な見守りをすることで、深刻な事態に陥る前に必要な支援・サービスに繋げています。

食品を定期的に届けることで、親の心理的負担を軽減するという効果もあります。親の心に余裕ができると、子どもも変わってくる。ご家庭に笑顔が増えたり、会話が増えたりするんです。要するに、親子の福祉のための事業ですね。
吉田:そうだったんですね。具体的にはどんなご家庭に、どんな方法で支援を行っているんでしょうか?
駒崎:こども宅食応援団で支援している各地ごとに少し違いはありますが、文京区こども宅食の場合は、児童扶養手当や、就学援助を利用している等といった、経済的な困難に陥っていたり、厳しい状況で子育てをされているご家庭に、2か月に1回のペースで、食品や生活用品を届けています。
お届けする食品は、企業からの寄付で賄っています。なかには、過剰生産で食品ロスになりそうなもの、何らかの理由で余ったものなどを、「社会に役立ててほしい」という想いで寄付してくださっているメーカーさんや小売さんもいます。内容としては、保存が効いて、調理も簡単なお米やパスタ、レトルト食品やお菓子などが多いですね。
吉田:なるほど。じゃあ今回私がおこなったお米の寄付は、まさにピッタリだったんですね。実は私、個人で米を1.2トン買うんですよ。毎年どんどん増えてるんですけど(笑)。
駒崎:1.2トンも!?どうしてですか?

このお米で、きっと困っている誰かを救えるはず

吉田:以前から「大地の芸術祭」という芸術祭を手伝っているんですが、そこで知り合った方々が、景観保全のために棚田を運営していて。毎年20トンくらいのお米を収穫できるらしいんですが、お米ってあんまり商売にならないんです。すごく手間をかけて作っているのに、台風などの災害でダメになってしまうこともある。
なのに、1キロ300円~500円、ブランド米でもせいぜい1000円とかで売っているのが普通じゃないですか。どうしても儲けは出ないですよね。
でも、そのお米が本当においしいんですよ。せっかくならいろんな人に食べてもらおうと思って、最初はお歳暮用に300キロ買ったんです。
みんなから「おいしい」と言われるし、お世話になっている人は毎年どんどん増えていくしで、一昨年は1トン、去年はついに1.2トン購入しました。そして、ふるさと納税の返礼品として送られてくるお米もあるんです。
駒崎:1.2トンをご自身で買って、さらにふるさと納税の返礼品もあるんですか?米長者ですね。
吉田:米長者だと思うじゃないですか!私も周りからそう言われて調べたんですよ。「加賀100万石」とか言われてるので、1.2トンは何石かなって……。8石でした。大名にはまだまだですね(笑)。
そのうちに「せっかくなら、誰かに寄付できないか」「社会課題解決のために使えないか」と考えるようになって、友人に相談したんです。そしたら「こども宅食がいいんじゃないの」って教えてもらって、今回の寄付に繋がりました。
駒崎:そういう経緯だったんですね。実際、僕らほどお米を切実に求めている団体はないかもしれない。お米は食品の中で一番保存が効くし、もらった方みんなが喜ぶんですよ。欲しいのに買えないというご家庭も多くて。
先日、利用者さんのご家庭にヒアリングに行ったら、お母さんが「子どもを塾に行かせられるようになったんですよ」っておっしゃっていたんです。「お金はどうされたんですか?」って聞いたら、「私が朝食と昼食を抜いてるんです」って。
子どもの教育費を捻出するために、親御さんが食事を抜く。そんなご家庭が、東京23区にもたくさんあるんです。そこに、吉田さんのお米が届くわけです。
吉田:そうなんですね……。ぜひ、継続的に寄付していきたいですね!
駒崎:今、こども宅食が宮崎、長崎、京都、佐賀など全国に広がっているので、送り先がたくさんあるんです。なんなら、棚田ごといただいても嬉しいくらいです(笑)。

ユーザーと真摯に向き合ったら、社会課題について考えざるを得なかった

駒崎:寄付をした経緯のお話の中に「社会課題」という言葉が出てきましたが、吉田さんはどんなきっかけがあって社会課題について考えるようになったんでしょうか?
吉田:やはり、クラウドワークスという事業をやっていることが大きいと思います。クラウドワークスは、企業と個人がオンラインで直接繋がり、仕事を受発注できるサービスです。現在は300万人のフリーランスの方と、40万社の企業にご利用いただいています。
今では日本でも「個人で働く」が当たり前になってきていますが、創業当時は決してそうではなかった。世界にはすでに「個人で働く」の例がたくさんありましたが、日本では企業間取引が前提だったんです。そんな状況だったので、企業・個人間の仕事のマッチングはビジネスチャンスだなと思い、参入しました。
でも、実際にサービスを始めてみると、ユーザーの収入格差が浮き彫りになりました。クラウドワークスのユーザーさんには、個人で年間2400万円も稼げる方から、年間で1000円、10000円しか稼げない方までいる。そして、「教育制度をつくってほしい」「ロールモデルがいない」「体調を崩したとき、クラウドワークスは何かしてくれないのか」などの声も絶えず寄せられています。
事業を興してから、この問題についてずっと考え続けていて。クラウドワークスは世の中にいくつかあるうちの1つのプラットフォームにすぎないので、極論を言えば「不満があるなら使わない」でもいいはずですよね。けれど、ユーザーさんは声をあげ続けている。
仕事のマッチングサービスだと思って始めた事業ですが、ユーザーさんたちはステップアップのための教育とか、コミュニティとか、助け合いとか、社会保障といったものを求めている。クラウドワークスは、単に仕事を提供するだけでなく、インフラとしての機能を期待されている場なんだと気付いたんです。
新経済連盟で理事をやってるので、厚生労働省の方と話す機会もあるんですが、クラウドワークスのユーザー間の格差って、厚生労働省が持っている日本の収入分布のデータとか似ている部分があるらしいんですね。つまり、我々が見ているものは、日本社会の縮図の “在宅ワーカー版” なのかもしれないんです。
駒崎:ユーザー層の収入の偏りは、そのまま日本社会の縮図になっている。
吉田:そういうことです。
ビジネスを提供するうえでは、つい分布の上層部の “稼げる人たち” にフォーカスしがちですよね。「稼げる人達に稼いてもらえればいい」という考え方もできます。けれど、私はどちらかというと、社会的弱者になってしまいがちな人たちに光を当てたい。
私自身、進学校にいたのに成績が悪かったり、いじめられていたりと、学校という社会の枠組みではずっと否定されていたタイプの人間でした。その一方で、同人誌を書いて販売していた販売会では、みんなに分け隔てなく扱ってもらえたんです。
その経験から、「たとえ社会的な場で否定されていても、自分を表現できる場所はある。全員が均等に扱われる世界もある」と知りました。私にとってはすごく大きな気付きでしたね。
だからこそ、社会から虐げられている、光が当たらないといった方たちに「クラウドワークスがあるから頑張れる」と思ってもらいたい。クラウドワークスを通して、そういう方たちと関わることを続けていきたいんです。
駒崎:なるほど。「クラウドワークスが、社会で否定されがちな方たちの活躍の場になれば」という思いを持っているんですね。
吉田:そうです。だからクラウドワークスでは、実名公開が不要ですし、年齢や住所も非開示で働けるようにしています。名前や年齢、性別などの社会的な属性を取り払っても、みんなが均等に扱われて信頼を勝ち得る場所。そんな世界観を実現したいですね。

経済格差は個人の責任ではなく、資本主義という社会システムの問題

吉田:上場会社の経営者としては、経済の発展や活性化を通して社会貢献したいという思いがあります。一方で、「そもそも貧困や経済格差は、現代社会に根付く資本主義というシステムのエラーである」という考えも持っています。
駒崎:どういうことでしょうか?
吉田:産業革命で資本主義が広まって以来、貧富の差は拡大する一方で縮まらない。貧困について考えるほど、資本主義そのものが生み出す歪みと向き合わざるを得ないんです。
資本主義社会が経済格差を助長しているという背景を考えれば、「貧困は自己責任」とは言えません。社会システムの問題であり、社会が解決するべき課題なんです。
そして「自分がこの社会で生きていくこと」に真摯に向き合えば、社会課題の解決が自分自身のためでもあると気付くでしょう。この問題とは継続的に向き合って、会社としても個人としてもできることをやっていきたいと思っています。
駒崎:なるほど。素晴らしいですね。

吉田:今の社会で固定化されている資本主義や正社員制度といったシステムは、実はせいぜい資本主義ならここ200年とか正社員制度なら戦後75年程度の歴史しか持たないものです。
今、私たちが常識だと思っているあらゆる価値観も、これからどんどん変わっていくはずです。社会課題に向き合い続けるというクラウドワークスの選択は、いつか社会に持続的な付加価値を提供することに繋がっていくと思っています。
社内でもSDGsを意識していて、勉強会や、男女の性差による職業機会の不平等についての調査など、さまざまな取り組みを行っています。

LGBTの方や海外の方の採用にも取り組んでいます。人事は今、7か国語を話せる体制になっていて。多様な人材を受け入れるとともに、社内ではジェンダーやセクシュアリティ、国籍、人種にかかわらず “個” の人間として扱うという教育を行っています。でもこれって、海外なら当たり前のことなんですよね。

去年は1週間くらい、GoogleとNASAが作ったアメリカのシンギュラリティ・ユニバーシティという学校に行ったんです。世界25か国からいろんな人が集まっていたんですが、それぞれの人が “個” として扱われていて、年齢や出身大学を聞くこともありませんでした。
日本は、まだいろんなバイアスが強い国ですよね。「〇〇大を出ていたらきっとこういう性格だ」みたいな。
私は、そんなものには意味がないと思っていて。うちの社員には日本中いろんな大学の出身者がいて、もちろん高卒の方も高専の方もいます。学歴などは関係なく、全員をひとりの人間として扱っています。
駒崎:事業領域としてSDGsに取り組みながら、社内の働き方や環境づくりにおいても大切されてるんですね。
吉田:はい。フルリモートやフルフレックス勤務の法務上・労務上の整備も、去年には完了しました。「在宅を優先して、必要な人は出社すればいい」という体制ができていたので、新型コロナの影響で社会が大きく動いても、混乱せずに即日で体制を整えることができたんです。
社内でも、日本にとっての新しい働き方を実現したいですね。

これからの日本は社会課題解決先進国になれる

吉田:私たちはSDGsの達成や社会課題の解決を意識していますが、そもそもSDGsは、日本古来の考え方とは異なるところもありますよね。
日本には八百万の神がいて、物も植物も動物も、あらゆるものを神として敬ってきた。一方SDGsは、「動物だからダメ、植物だからいい」のように、守るべき範囲を限定しつつも人間の都合で拡大している。誰かがイニシアティブをとるために境界線を拡大している、ヨーロッパ的な考え方だと思うんですよね。
駒崎:それは僕も感じています。どこか独善性のようなものが感じられるというか。だからこそ、日本に住む僕たちは “自分たちのもの” として捉え直したうえで、「社会課題は自分たちが解決していくんだ」という意識を持たないと。
そうでなければ、ブームが去ったら忘れられて根付かないと思いますね。「SDGsを達成しよう」と言われたからとりあえずやる、という姿勢では意味がない。もっと自分ごととして考えないと。
吉田:そうですね。古来から八百万の神とともに生きてきた日本人は、SDGsとはまた少し違う、あらゆるものを対等な関係性でとらえる視点を持っているはず。それはきっと、世界にもリードできる武器なんじゃないかな。
駒崎:そう思います。
フローレンスとしても、自ら積極的に日本の社会課題の解決について発信し、世界をリードしていきたいという想いがあります。
日本は、世界で最も早く少子高齢化してしまった国です。でも、視点を変えれば、これから高齢化していく国にソリューションを提供できる立場でもあると思うんです。

保育でも似たような話があって。これまで中国には、0~2歳児を保育するシステムがなかったそうです。1年ほど前にやっと保育に関する法律ができたんですが、参考にしたのが日本式の保育だったんですよ。そういうところはしっかり “クールジャパン” ですよね。
自国のことを内向きに考えると、「あれもダメだ、これもダメだ」と思ってしまいがちです。けれど、日本はこれから世界的に噴出するであろういろんな課題に一番最初に見舞われ、その解決に対して試行錯誤してきた国でもあるんです。
今後は、そのソリューションを発信していくことによって、人類に貢献できる可能性もあるのではないかなと思っています。

(※本対談は緊急事態宣言前の2020年3月上旬に実施しました)

執筆:小晴

「こども宅食」は、厳しい環境にある親子に社会が手を差し伸べる、新しい福祉の形の事業です。文京区からはじまったモデルを、こども宅食応援団が全国各地の実施団体を伴走支援をしながら全国展開しています。

こども宅食応援団は、全て自己資金で運営をまかなっており、現在は「返礼品なしのふるさと納税」を財源として活動をしています。この事業をさらに全国に広げていくためには、みなさんのご協力が必要です。ぜひご支援ください。
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