こども宅食応援団は、2024年にビジョンミッションを新しくつくりました。ビジョンは「すべてのこどものとなりに、ぬくもりを。」ミッションは「今日を生きるこどもたちのために、多様な人々が手を携え孤立を生まない社会を創る」です。私たちの理念を伝えて、目指す社会を皆さんと一緒につくりたい。そんな想いを込めて、ともに歩む方にお話を伺います。第一弾は、こども宅食応援団の常務理事、原水敦のインタビュー記事です。
原水敦プロフィール 一般社団法人こども宅食応援団常務理事。大学4年次、ボスニアでのNGO活動に参加。卒業後、障害者福祉施設に入職。在職中に市民団体Uppleを立ち上げ、7泊8日の教育キャンプをスタート。2013年に独立し、一般社団法人ピープラスを設立。福岡にカタリ場、マイプロジェクトを誘致。同時に、北九州まなびとESDステーション特任教員として、ESDをテーマに大学生主体の約25個のプロジェクトを伴走。2020年よりこども宅食応援団に参画し、2022年6月に理事に就任。北九州市立大学非常勤講師、高校スクールソーシャルワーカー。社会福祉士、保育士。 |
私は学生時代、工学部電気工学科に在籍していましたが、心からやりたい!と思える業界とは感じられず、将来への漠然とした不安がありました。元々こどもが好きなことから、テレビで戦争のニュースを見て戦争孤児のことを知り、関心を抱き、休学して旧ユーゴスラビア(ボスニア)における内戦後のこどもたちの支援にかかわるNGO活動に参加しました。海外で、過酷な環境で生きるこどもと触れ合う中で「今の日本で、こどもを取り巻く環境はどうなっているんだろう」という思いが生まれ、帰国してから、福祉業界に進むことを決意。障害者施設に就職し、障害のある方の支援に携わってきました。初めて向き合う障害のある方との日々に試行錯誤しながらも、その背景にある厳しさにも直面しました。最初に担当となった利用者のAさん。Aさんは発達障害があり、自分の意思表示をうまくできませんでした。関わり始めて2年目。家族の都合で入所施設での暮らしに変わることになり、退所する日にAさんは何も言わずに号泣していたのです。
その時、こうした家庭の状況は、「保護者や家庭に閉じた問題ではない」ということを強く感じたことを覚えています。「もしかしたら、社会に問題があるのではないか?生まれた環境に関わらず、つらいときには支えられるような社会にはできないのか。」そのような疑問とともに、福祉業界だけではなく、地域づくりに取り組むNPOに参画するとともに、教育系NPO団体を立ち上げました。
その後、東日本大震災を機に独立を決意し、地域のこどもたちを、地域の若者たちとともに育むプログラムの立案を本格的にスタートしました。独立後は、中高生向け探究学習プログラム「カタリバ」や「マイプロジェクト」を福岡にて展開すると共に、北九州市立大学特任教員として20を超えるPBL(問題解決型学習)に関わってきました。将来を担うこどもたち、そしてこどもを支える大人たちを支える取り組みは、やりがいを感じられるものでした。毎日、大人や学生とかかわる中で、勉強だけではない非認知能力や、乳幼児期からかかわる早期支援の必要性を感じ、幼児を理解するために保育士免許を取得したり、活動の軸を、未就学児の支援にも少しずつ広げていきました。
その頃、カタリバで一緒に活動していた低引稔さんに教えてもらい「こども宅食応援団」の存在を知りました。(低引稔さんは、当時こども宅食応援団の組織基盤づくりも担当)佐賀を中心に、九州地域で幅広く活動している井内さんとの出会いが、私のこども宅食応援団の活動のはじまりです。
――佐賀本部で活動する井内との会議の様子
こども宅食応援団の活動を聞いて、「食をフックにした取り組み、面白いな」と、大きな可能性を感じました。それまでのキャリアで、こどもが育つ環境に関わらず、社会で育てることはできないものかと、親だけが責任を負う社会構造に危機感を感じていましたが、こども宅食なら、そこにアプローチできるのではないか?という直感がありました。
当時のインタビューより https://hiromare-takushoku.jp/2020/07/27/1948/
何よりも重視すべきは、こども達の命。そして教育だと考えています。 今は未就学児への教育や保育に注目しています。原点はそこにある。遊びと食育、こどもの成長に欠かせないものが詰まっていると思います。その大切なものが失われてしまっては成長をとめてしまう。そこに大きな危機感を感じています。本当に必要な人に届きづらい支援、もっと早く気づいていれば…そう感じる経験を数多くしてきました。 それを誰もが必要で、大切な食を通して、アプローチするこども宅食。まずは現場の声をお聞かせいただけることも楽しみの一つです。もちろん簡単では無いということもわかっています。そこに寄り添いながら、私自身が現場でできることも探っていきたいと思っています。 |
2020年は、九州地域でこども宅食の立ち上げを支援することに集中していました。コロナによる子育て家庭の生活環境もどんどん厳しくなる中、こども食堂も活動が止まっている地域が多く、なおさら「アウトリーチ(出張る福祉)」の需要が高まっている時期でした。
こども宅食応援団での活動は九州地域での立ち上げ支援からはじまりましたが、2021年から2023年にかけて、全国を対象とした普及活動に積極的に取り組んできたことでこども宅食を実施する団体がどんどん増え続け、たくさんの地域の方と出会う機会が増えていきました。本当に素敵な方ばかりで、それぞれ魅力的な活動をされていらっしゃることを知り、とても嬉しかったです。連携するのも、こども宅食を実施する民間団体さんだけではなく、社会福祉協議会や児童家庭支援センター等との関わりを持ち始めたのもその頃です。
団体さんにアプローチするなかで大きな気づきがありました。応援団は「仲間を増やすこと、素敵な団体さん同士をつなげること」も大切な役割ではないかと思い始めたのです。
2018年10月に設立したこども宅食応援団は、今年6年目を迎えます。昨年度、半年かけてメンバーで議論を重ね、こども宅食応援団としての「ビジョン・ミッション」をつくりました。これまでは「親子のつらいを見逃さない社会をつくる」というメッセージを掲げて活動してきましたが、事業を全国へ拡大しながら成長する中で、組織としてどこに向かうか、何を大切にするかを言語化して、みんなで共有しながら進みたい、という想いがありました。
2019年に制作した公式サイト
2024年、新しく策定したビジョン・ミッション
メンバーたちと、めざす社会についての対話を重ねる中で、こどもの困難は親の責任論ではなく「社会全体でこどもを守ることが重要だ」という考えに至りました。ミッションにある「多様な人々」には、親ももちろん含まれているし、近所のおっちゃんおばちゃんも含まれているし、一般市民もいるし、専門職もいます。「今、この瞬間も何とか頑張って生きているこどもたちを、何とかするんだ」っていうことに焦点を当てようよ、という議論をしました。親は、多様な人々の中に入るんだと。「親子の支援」とすると、「子は親が育てるもので、支援される対象になる」という構図、親の自己責任論になりかねないなと思います。
そうではなく、生まれたこどもの存在を守るのは、みんなでやろう!という想いを込めて、あえて「親子」ではなく「こども」というワードを軸にこのビジョン・ミッションをつくりました。
こども宅食が取り組む課題は大きく、重いものでもありますが、活動は楽しく、気が付いたら巻き込まれているような、もっと、あたりまえに手を携える世の中にしていきたいなと思います。専門職の方だけではなく、地域の皆さんなど、様々な形のつながりがあって良いと思います。そうした、こどもを中心として、わちゃわちゃした雰囲気で、連鎖がひろがっていくようなイメージをもっています。
孤独と孤立は異なるものだと考えています。周囲の思い込みで「あの人は孤立している」と決めてはいけないと思っていますし、一人でいることが好きな方もいらっしゃいます。周囲の思い込みではなく、本人の意思を尊重することが大切です。でも、ヤングケアラーなど、本人に困っているという自覚がないこともあります。特にこどもには、寄り添う支援が必要不可欠だと考えています。
今、国では孤独孤立に関する政策ができたりしていますが、それが生まれること自体問題だなとも思います。本当にそれだけ日本は今、人に関心を持てなくなってしまっているのだと思います。多分、自分自身のことで精一杯で、自分がちゃんと生きていくことでさえもままならない人たちが増えてきて、周りの人までなんて思えない。だから、状況が厳しい人たちがどんどんより厳しくなってるのかなと感じます。
「孤立を生まない」と言っていますが、本質的にはそれぞれが自分の自己選択や、自己決定が尊重される社会になることがまず先だと思ういます。人生をちゃんと自分で選択できる、自分で決められる、それが保障される、それをサポートしてくれる人が近くにいる。それは大人かもしれないし友達かもしれないし、いろんな人なんじゃないかな、それが全てなんじゃないかな、という気もします。緩やかな繋がりがあって、緩やかなおせっかいもある、そんな状態が、もしかすると人にとって一番心地いいのかもしれないな、と思います。
こども宅食応援団は、宅食の普及を通じて、多様な人々と対話し、良い社会を作っていくことを目指します。全国各地に、本当に素晴らしい人がいて、人に寄り添う温かな取り組み・活動があるので、それらを広め、見えてきた課題を丁寧に国に伝えることでよりよい政策が行われることにも寄与していきたいと考えています。新しいビジョン・ミッションのもと、私たちと同じ思いを持つ人々と手を取り合い、社会を変えていく原動力としていきたいです。
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