こども宅食応援団のビジョンは「すべてのこどものとなりに、ぬくもりを。」ミッションは「今日を生きるこどもたちのために、多様な人々が手を携え孤立を生まない社会を創る」です。私たちの理念を伝えて、目指す社会を皆さんと一緒につくりたい。そんな想いを込めて、ともに歩む方にお話を伺います。
今回は、こども宅食応援団と連携して事業推進いただいている、認定NPO法人スチューデント・サポート・フェイス(略称S.S.F.)の代表理事 谷口仁史さんのインタビュー記事です。
谷口仁史さんプロフィール |
私が不登校・引きこもり支援を始めたきっかけは、大きく二つあります。
ひとつは、大学時代にボランティアで家庭教師をしていた経験によるものです。教授からの依頼で不登校や非行傾向の生徒を担当していましたが、、学校から見る子どもの姿と、家庭の中で見る子どもの姿は、全然違って見えました。学校からの目線だけで見ると、非行を行う子や、学校で暴れてしまう子など問題視される生徒がいても、家庭教師でご自宅での様子を見てみると、実はその子自身の問題ではなく、虐待の影響だと気づくことがありました。
例えば、お父さんが普段は周囲から信頼されているような、情熱をお持ちの方なのにも関わらず、カッとなったら手を上げてしまう習慣があり、その影響を受けて、子どもが学校で同じように友人などへ手を上げるようになっていた、ということがありました。
学校だけではなく、家庭での様子を見ることから、子どもを取り巻く環境や状況が少しずつ見えてきたのですが、もし何も知らずに、学校での行動だけを見て、何かを制限をするよう指導するようなアプローチしていれば、子どもを孤立させ、よりまずい方向に行っていたのではないか、と思います。
二つめのきっかけは、大学時代、友人を覚醒剤で亡くしたことです。
私は、最後のSOSを受け取っていて、友人は覚醒剤の売買に関するトラブルを抱え、暴力団から脅迫を受けている状況でした。すぐに対応しようとしたのですが、かたくなに今日じゃなくていい、と言うんです。 なぜかというと、その日は私が先ほど申し上げた家庭教師の日だったんですね。「子どものことを優先してほしい」と強く主張する彼の想いに根負けして、電話を切ったのです。それが最後の会話になってしまったという事がありました。友人はその日に追い込まれて、自ら命を絶ってしまいました。
その時に私は、友人を救えなかった絶望的な後悔を抱いたのですが、彼が亡くなってから、初めて知ったことがありました。実は、彼を追い込んだ覚醒剤の売人も不登校であったし、虐待を受けているし、家族は障害を持ってるし、親父はチンピラだし、高校も中退していました。誰かがSOSを受け止め、過酷な環境を、なんとかできなかったのかと、、。そのような感情を、学生時代に抱きました。
そして、「学校の外から、家庭から支える仕組みを作らないと、とんでもない社会になる」という思いを持ちながら、大学卒業と同時に立ち上げたのが、NPOスチューデント・サポート・フェイス(以下、S.S.F.)です。
S.S.F.を立ち上げて、一番最初は、とにかくなんとかしなきゃという思いだったので、アルバイトをしながら、まずはボランティア組織として、家庭教師という名目で、家庭へのアプローチをしました。 不登校の問題など、心の悩みがあっても、カウンセラーに話すという文化が、日本にはまだ浸透していなかったからです。
また不登校の子どもに対して、「遅れた勉強を取り戻す」という名目だと、意外と子どもも保護者も受け入れやすいというのが、当時の経験からも分かっていたので、まずは家庭教師としてアプローチをしながら、一緒に勉強を通じて関係性を築き、少しずつ本来の支援に入っていく、、というスタイルでやっていこうと始めました。
「何とかしたいけどどうしていいか分からない」、親としてやるべきことをやり尽くしてもうまく行かずに無力感を抱えている、といった保護者も少なくありません。
特に思春期、反抗期に入ると正しいことを伝えても子どもが言うことを聞けなくなっていたり、時には家庭内暴力が発生して対立していたりと、こんな場合でも第三者が入ってうまく仲介をしてあげると、本心ではお互いに思いあってる親子だというのが分かることがほとんどです。
ちょっとした行き違いから、なかなか素直になれなかった親子も、お兄さんお姉さん世代、ナナメの関係性を構築出来る「第三者」がそっと介入することでうまくいくこともあるということが、経験から分かっていましたし、時には「こういうアプローチをしたら、こんな変化が生まれましたよ」など私の体験談を、親御さんに伝える手紙を書いたりもしました。
距離感として、親だから見えること、 親だからこそ見えにくいことがあります。 それらをふまえて、お子さんへの関わり方やその変化を丁寧に説明していくと、少しずつ親御さんにもこれまでとは異なる視点や気持ちの変化が生まれ、結果、お子さんとの関係性が修復され、親御さん自身も自己有力感が持てるようになっていきました。
そうして活動を続けるうちに、社会には、孤立している子どもたちが非常に多いことに気づき始めました。 学校も見放してしまって、親御さんとも対立構造になっていたり、誰も自分の思いを共有できずに、それぞれが苦しんでいる。そういう家庭に出会うことが多かったのです。
私たちは「価値観のチャンネル合わせ」と言ってますけれども、まずは学校や親御さんからもらう情報だけで判断するのではなくて、まず本人の価値観を感覚レベルで理解することに徹底的にこだわっています。
孤立する過程を見ると様々な人との出会いの中で傷つきを重ね、「もう誰も信じられない」と心を閉ざした状況にあります。深刻化した状態のお子さんの所に訪問し、見ず知らずの人間が傾聴したところで受け入れてもらえることはほぼありません。
その時に大切にしているのは、まず「否定から入らない」ということですね。時には、かなり厳しい(乱暴な)言葉を使う子もいたりします。 ただ、それを発する理由や背景があるので、まずはそこを察することから始めなきゃいけないと思っています。
本人が好きなこと、興味関心を持っているところに、まずはリンクしてみる。ひきこもり状態にあるお子さんの中には、ゲーム障害、特にオンラインゲームに依存している子も多いのですが、そこをいきなり否定して入ろうとしても良い結果は生まれません。むしろつながる機会と捉え、あえてオンラインゲームの中から働きかけることがあっても良いと思います。オンラインゲームは24時間365日アクセスできる世界ですから、僕たちがそこにアクセスしてみて、その子がその世界でどんな立ち回りしているのか、何を達成しようとしてるのかな、 どんなキャラを演じてるんだろう、、というところまで、見ていくのです。
そうしてその子の見る世界を知っていくと、現実の世界をこういうふうに捉えているんじゃないか、などということが、感覚的に理解出来るようになってきます。 そうすれば、どういう接点であれば、アウトリーチを受け入れてもらえるのか、閉ざした心を開いてもらえるのか最初のファーストコンタクトの入り口が見えてくる、なんていうこともあります。
そのような想いで活動を続けて、今ではアウトリーチのプロフェッショナルとして、カウンセリングから学習支援、家族支援、居場所づくり、就労支援等、社会参加・自立に至るまでの「伴走型」の寄り添い支援を実践して、佐賀県全域に対応しています。 現在、年8万7000件超(R5年度)の相談がきている状況です。
2003年にS.S.F.を立ち上げた時、これは新しい制度作りだ!と思って挑戦を始めたのですが、当時まだ「アウトリーチ」という名前もなかったですし、むしろ心理の世界では、自らSOSの声を発していない状況の人にアプローチをするのは良くない、とも言われていた時期です。今でいうアウトリーチがタブー視されていたような時期でしたが、大学時代の自分の経験から、私としては、絶対に必要だと確信していました。
そして、新しい仕組みづくりをするためには、新しい人材育成の仕組みを整えないとうまくいかないとも思っていたので、仲間集めと育成に取り組みました。社会問題解決のプロセスにおいて有能な人材を育成し輩出していくことを目的に「戦略的人材育成事業」と名付け、大学生への呼びかけから始めました。なぜ大学生かというと、支援する子どもたちにとっては、お兄さん・お姉さん的アプローチが有効ですし、福祉や教育を学ぶ大学生にとっては、社会人となり、教壇・医療現場・福祉現場等に入ってからでは見えなくなりがちな「家庭の中が理解できる体験」は、非常にプラスになるので、win-winです。
その後も、大学機関や行政機関との協働も年々活発に行い、ネットワークの拡充に取り組んできました。今は、こども宅食応援団の皆さんにもお声かけをさせていただいていますが、新しく、制度や分野の枠組を超え、子ども若者支援の全国ネットワークを立ち上げている最中です。 社会問題を解決していくためには、みんなの力を結集するしかないと考えています。
立ち上げ時、方針として「必要なもの、足りないものは、協働で作り出す」という標語を掲げました。実践も代替案もない、無秩序な批判こそが世の中をダメにしてるのではないか?ということを感じていたからです。
例えば、家庭内の困窮や貧困、虐待などの問題を抱えていても「それは親が悪い」等と決めつける自己責任論で語られたり、生きづらさを抱える子どもが「みんなと違う」ということに悩みながらも、誰にも言えない空気感にのまれ孤立してしまう。支援者側も同様に問題が起こる度に無秩序な批判にさらされ、バーンアウトしてしまうなど本来の支援活動が出来なくなるといった事案も後を絶ちませんでした。
助けてのSOSが出せない状況は今も続いています。さらに、ネットの上での無責任な誹謗中傷も加わり孤立を生む要因となっています。小中高の自殺者数も過去最多を更新しています。社会が作り出してしまった今の現実に対して、解決策を出していくしかないと思っています。
昨年から始まった、妊娠期からつながり産前産後の子育てをサポートする「こども宅食赤ちゃん便」※ についても、とても有効で重要なアウトリーチの手法だと考えています。立ち上げの時、応援団の井内さんにお話を聞いて、非常に共感するアプローチだと思い、一緒に取り組むことになりました。
※こども宅食赤ちゃん便 |
核家族化に加え、地域のつながりの希薄化が進み、子育て負担が親に集中してしまう時代。一方で虐待は疑いであっても通告義務が課されている時代でもあります。子育ての悩みを抱えても説教を受けたり、非難されるのではないか、虐待と疑われたらどうしよう、、とSOSの声を上げづらいと感じている親御さんも少なくありません。また、支援のため全戸訪問を行う自治体もありますが、ただでさえいっぱいいっぱいなのに、関係性が構築されていない専門家が訪問して「話を聴かせて」と言ってもむしろ負担だと感じる親御さんもいます。
一方で、今まさに必要なものを定期的に届け声かけや見守りしてくれる赤ちゃん便は、「価値感のチャンネル合わせ」に通じるものがありますし、専門職が協働で実施することで、親御さんが必要性を感じた時に赤ちゃん便を通じて顔見知りとなった専門職に気軽に相談出来る、というコンセプトからも非常に重要かつ有効な手段だと思っています。
世の中の価値観も多様化していますので、さまざまな親御さんに合わせて、情報発信の方法も変えていったり、必要性のあるところに、きちんと支援を届けていくアウトリーチ型支援の取り組みは、官民協働で、ますます拡充していかなきゃいけないと思います。
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